<経済レポート> 循環的スローダウン:米労働市場動向

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米雇用市場は11月にも堅調な拡大を見せ、12月のFOMC利上げ決定を支援する材料となった。ホリデー商戦も昨年を上回る伸びを見込む。しかしながら、中期的には雇用拡大ペースは循環的な減速局面に入る兆しがみられる。これが反転するか否かは、米次期政権の減税政策等が鍵になりそうだ。

雇用増加ペースはじりじり低下している

米雇用統計によれば、11月の米非農業部門雇用者数は前月比+178千人の堅調な増加だった。これは、FRB連邦公開市場委員会(FOMC)が12月の定例会合で追加利上げを決定するとの当レポートの予想を支持する結果である。しかしながら、米雇用市場の拡大ペースは循環的な減速に入っている。当レポートでは、堅調ながらも減速の兆しのある米雇用市場の状況をいくつかの指標から見ていく。

非農業部門雇用者数の前月比増加数の年間平均は2016年に3年ぶりに+200千人を割り込む見込みである[第1図]。また、非農業部門雇用者数の前年比の伸び率は11月現在で+1.6%と、今年3月の同+2.0%をピークに低下に転じている。経験則的にも、前年比+2%の雇用の伸び率は2000年以降ではほぼピークに近い([第2図])。

雇用者数の伸び率低下は、消費者の購買力の伸び率の低下をもたらす。[第3図]は、雇用者数の伸び率と週平均労働時間の伸び率との和である労働投入量の伸び率から、時間当たり賃金伸び率と消費者物価指数の伸び率の差である実質賃金伸び率を差し引いて算出される、消費者の実質購買力の伸び率の推移を見たものである。これによれば、実質購買力の伸び率は今年の7月の前年比+3.6%をピークに低下傾向をたどっており、11月現在で同+2.0%となっている。実質購買力の伸び率低下は、労働投入量の伸びと実質賃金の伸びがいずれも低下していることが背景となっている。

[第1図]
20161205図1

[第2図]
20161205図2

[第3図]
20161205図3

労働参加率の上昇に頭打ち感がある

失業率は、11月に4.6%とほぼ10年ぶりの低水準にまで低下した。現在の米国の自然失業率は4.7%とされており(米議会予算局による2016年8月時点での推計)、現在の失業率はほぼ自然失業率に近い水準にある。つまり、現在の米国はほぼ完全雇用に近い状態にあるといえる。一方で、失業率の低下ペースは過去1~2年の間明らかに低下している([第4図])。失業率実績が自然失業率を超えて大幅に低下する兆しは今のところ見られない。

失業率低下ペース減速の背景には、労働参加率の上昇がある。[第5図]によれば、失業率の低下ペースの減速には労働参加率上昇が大きく寄与していることがわかる。労働市場の需給のタイト化にあわせて労働力人口への再流入が進んでいることで、見かけの失業者減少ペースが低下して失業率低下に歯止めがかかっていることになる。これは、労働市場の拡大を示唆する良い失業率の横ばい傾向である。

しかしながら、労働参加率の上昇にも変化がみられる。労働参加率の3ヶ月移動平均は11月時点で62.8%と、3月の62.9%をピークに低下に転じている([第6図])。労働参加率は今年に入りそれまでの中期的低下から反転上昇に転じていたが、ここにきて頭打ち感がでてきたことは否めない。

[第4図]
20161205図4

[第5図]
20161205図5

[第6図]
20161205図6

賃金上昇率・労働時間は伸び悩んでいる

賃金上昇率も当レポートのこれまでの見通しほどには上昇していない。当レポートでは、失業率が自然失業率を下回るとともに賃金上昇ペースが加速すると見ていた。しかし、失業率と時間当たり賃金上昇率の関係を示すシンプルなフィリップス曲線によれば、10-12月期に入り賃金上昇率が低下に転じていることがわかる([第7図])。

賃金上昇率の低下は、消費者インフレ率の上昇とともに実質賃金の伸び率低下を通じ消費者購買力の伸びの低下をもたらす。11月現在の実質賃金上昇率は前年比+0.7%と、昨年10月のピークである+2.2%から1年間で約-1.5%も低下した。上記で見たように、実質賃金上昇率の低下が実質購買力伸び率低下の主要因となっている。

雇用市場の需給が見かけほどタイトでない可能性を示唆する指標として、週平均労働時間の推移があげられる。同指標は、労働市場の需給を表す先行指標とされている。週平均労働時間(生産及び非監督労働者)は11月現在で33.6時間と、昨年12月のピーク33.8時間から減少傾向にある([第8図])。

[第7図]
20161205図7

[第8図]
20161205図8

短期的にはセール好調を見込む:来年以降は減税動向がカギ

これらの指標は、雇用市場の拡大ペースが徐々に減速局面に入っていること、また今後もそのペース拡大は見込みにくいことを示唆している。米雇用市場はひとつの曲がり角にきているといえそうだ。雇用市場の拡大ペース減速は、消費者購買力の伸び低下を通じて、個人消費拡大ペースの低下をもたらす。実質個人消費の前年比伸び率は10月現在で前年比+2.8%と、潜在成長率を上回るペースを保っている([第9図])。しかしながら、上記の通り実質購買力の伸びが2%レベルに低下したことを勘案すれば、今後の個人消費の伸びは+2%程度のペースに減速すると考えられる。また、これまで個人消費のけん引役だった自動車販売の増加ペースに頭打ち感がみられることも、今後の個人消費の減速を示唆する材料である。

もっとも短期的には、米大統領選挙後の株価上昇や消費者センチメントの上昇を背景に、今年のホリデー商戦は前年比+4.0%の強い伸びが見込める。また、2%前後の個人消費増加ペースは、米国経済をその潜在成長率に沿ったペースで拡大させるには十分なものである。

今後の個人消費拡大の持続性を決める一つの要因は、米次期大統領のトランプ氏の経済政策にあるといえる。同氏は、個人所得税制の簡素化による実質的な減税策を打ち出している。米議会予算局によれば、2017財政年度においてこの個人所得税減税は約1254億ドルの減税効果があると推計している。この個人所得減税幅は、10月現在の名目個人消費年率12兆9249億ドルの約1%に相当する大きなものである。

[第9図]
20161205図9

(訂正)12月6日:[第9図]を追加。同図指定の記述箇所を訂正しました。

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