<経済レポート> 反動が加速を呼ぶ:米経済定点観測

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2017年の米経済成長率は、前年比+2.4%への加速を個人予想する。もっともこの加速は、企業部門や在庫投資の昨年の減速の反動によるところが大きく、中長期的には経済は循環的な減速局面に入っているとの見方は不変である。トランプ新大統領の政策には不確実性が高く、現状ではその多くを予想に反映していないが、総じてネットでは上振れ要因と見たい。下方リスクは政治・地政学リスクであることは昨年と同様である。

2017年は2.4%成長を見込む:トランプ新大統領の政策は不確定要因

昨年2016年の米実質GDP成長率は前年比+1.7%程度にとどまり、3年ぶりに2%成長を割り込んだ模様だ。年前半の個人消費急減速が成長を押し下げたこと、企業部門の減速で設備投資が通年で前年比マイナスの伸びにとどまったこと、また在庫調整が成長を押し下げたことが減速の主因であった。しかし、年後半に成長は回復し、公表済の2016年7-9月期実質GDP成長率は前期比年率+3.5%と、外需を中心に強い伸びとなった。10-12月期はやや減速するものの、同+2%台半ばの成長を見込む。

今年2017年については、企業部門の回復と在庫調整の終了が成長を押し上げ、実質GDP成長率は通年で通年では前年比+2.4%の成長を筆者個人の予想とする。もっとものちに述べるように、米経済は循環的な減速局面にあり、年後半には成長は減速していくと見る。([第1図])。

2017年の成長を見通すに当たり現状不確定要因となっているのが、トランプ新大統領の経済・財政政策である。当レポートでは、トランプ氏が選挙戦前後に掲げた政策がネットでは成長にプラス寄与する可能性をみている。しかしそれらの政策の実現性は現在定かではなく。就任後100日間のいわゆるハネムーン期間により明確になるだろう。今後は新大統領の一般教書演説、予算教書、経済演説等でその政策の経済効果を見積もっていくこととしたい。本レポートでは、まずGDPの需要項目ごとに2017年の成長率とFRBの金融政策を見通すとともに、現時点で判明しているトランプ新政権の政策が成長に与える上下双方のリスクを見ていく(トランプ新大統領の政策については11月24日付当レポート参照)。

[第1図]
20170109図1

雇用は循環的減速局面に入っている

まず、米経済の牽引役である個人消費から見る。昨年2016年のGDP統計上の実質個人消費は前年比+2.7%程度の伸びになった見込みである。2017年は雇用拡大ペースの減速により拡大ペースがやや鈍化、それでも通年で同+2%強の拡大を個人予想する。

一方、米経済の循環的減速は雇用拡大ペースの減速にもっともよく現れている。2016年の非農業部門雇用者数の前月比の伸びは平均+180千人と前年の同+229千人から大幅に減速し、3年ぶりに同+200千人を下回った。2016年の非農業部門雇用者数の前年比伸び率は平均+1.75%で、2015年の同+2.08%から大幅な減速となった。雇用の伸び率の減速は消費者の購買力の伸び減速につながり、個人消費の減速要因となる。実際、雇用増加・週平均労働時間・実質時間当たり賃金の伸びを合わせた購買力の伸びは、11月現在で前年比+2.0%にまで低下している([第3図])。これは、実質個人消費の伸びを高々+2%レベルに維持することが可能なギリギリの水準である。

もっとも、失業率は昨年12月現在で4.7%と、米議会予算局(CBO)が推計する自然失業率4.7%とほぼ同水準にある。これは、現在の米雇用市場がほぼ完全雇用状態のほぼ均衡状態にあることを示唆している。つまり雇用市場からはまだ米経済に過熱感はなく、したがって急激な景気の転換が起きる立ち位置にはないといえる。とはいえ、雇用市場がほぼ均衡状態にある現状からは、雇用拡大ペースは徐々に減速していくと考えるのが自然であろう。2017年については、雇用の伸びが前年比+1.5%程度にとどまることで、個人消費は緩やかな減速局面に入るとみておきたい。

[第2図]
20170109図2

[第3図]
20170109図3

雇用減速・金利上昇・インフレが個人消費を減速させる

ここで、実質個人消費の要因分解をアップデートする。実質個人消費の決定要因として、非農業部門雇用者数の他、時間当たり賃金、インフレ率、長期金利、株価、住宅価格を用い、以下の想定をおく。時間当たり賃金上昇率(生産及び非監督労働者)は昨年末にかけてようやく加速を見せている。ここでは、2017年の同上昇率をほぼ現状の前年比+2.5%と想定する。インフレ率は、個人消費支出価格指数(PCEデフレーター)の前年比で+1.7%と想定する。金利については、米国債10年物利回りが2017年末に3.3%、30年物モーゲージ金利が5%に上昇すると想定する(長期金利の均衡水準推計については11月24日付当レポート参照)。株価については不確実性が高く予想が困難であるが、大統領選挙結果を契機とした株価上昇が来年も持続するとは考えにくく、また株価収益率からみた株価割高感や、今年の長期金利上昇に鑑みれば、年後半には弱含むと見たい。そこで、年初に一時NYダウが20000ドルを超えるもその後弱含みとなり年末に19000ドルで着地と想定する。住宅価格は、S&Pケース・シラー住宅価格指数(10都市)がほぼ現状の上昇ペースである前年比+5%の上昇を続けると想定する。

要因分解の結果が[第4図][第1表]である。これによれば、雇用増加ペースの低下、金利上昇、インフレ率上昇が主要因となって、2017年の実質個人消費の伸び率は現状に比べて低下するとの結果になった。これは、上記の実質個人消費減速予想にも整合する結果である。

これに対し上方リスクとなりうる要因が、トランプ新大統領が選挙戦期間に掲げていた所得税減税策である。同氏は、中間層の所得税を-35%緩和することと税制の簡素化を公約として掲げていた。仮にこの政策が早期に実施されれば、個人消費予想に対する上ブレ要因となりうる。しかし、かかる抜本的税制改正は、議会の法案可決を経て最速でも2018年において示現するにすぎない。2017年中の減税による成長押し上げ効果はここでは見込まないこととする。

[第4図]
20170109図4

[第1表]
20170109表1

企業部門は反動で緩やかな拡大へ

次に企業部門の設備投資について見る。2016年のGDP統計上の設備投資は通年で前年比わずかにマイナスの伸びに転化した模様である。企業部門の減速の背景は、海外景気の減速による輸出減速、原油価格急落によるエネルギー関連設備投資の低迷、企業在庫調整などがあった。2016年後半にかけて輸出はやや回復、原油価格は底入れした。また在庫調整はほぼ完了したと見られる。したがって、2017年はこの反動もありプラス成長への回帰を見込む。しかしその拡大ペースはほぼ2015年並みの、前年比+2%程度にとどまると見る。

設備投資の拡大ペースが回復後も緩やかなものにとどまると見る理由は以下の通りである。企業の設備投資の源泉となる企業ネットキャッシュフローの伸びは、ここ数年間概ね横ばい基調にとどまっている。2013年以降は名目設備投資がネットキャッシュフローを上回る状態が続いている([第5図])。また、鉱工業の設備稼働率は11月現在で75.0%と、前年同月の75.7%から大幅に低下した状態にある。企業設備投資をめぐる環境はまだ好転していない。

設備投資の決定要因として、企業ネットキャッシュフローと設備稼働率を用いた回帰分析の結果が[第2表]である。これによれば、2016年中の設備稼働率低下とネットキャッシュフローの悪化が2017年の設備投資を引き続き抑制するとの結果が試算できる。この結果だけからは、2017年の設備投資もマイナスもしくは横ばい程度にとどまると見ざるを得ない。

[第5図]
20170109図5

[第2表]
20170109表2

在庫循環は積み増し局面へ:貿易収支・政府支出はまだ未確定

しかし、企業部門にも明るい兆しがみられる。一つは在庫調整の終了である。在庫循環図は、これまでの「在庫調整」局面から「意図せざる在庫減」局面に入っており、今後「在庫積み増し」局面入りすることが予想される。企業在庫の積み上げは2017年の成長の押し上げ要因となろう。また、在庫調整が企業の生産と設備稼働率を抑制してきた一因だと考えれば、今後設備稼働率は上昇することが考えられる。原油価格の回復はエネルギー産業の稼働率上昇と設備投資再開を促しうる。また、ISM指数の好転に見られるように、昨年末にかけて企業景況観が「玉虫色」から「好転」へと移行する様子が見て取れる。よって、2017年のGDP統計上の設備投資は、上記の推計値よりやや強めの前年比+2%成長を見込んでおく。なお、トランプ新大統領が選挙戦中に掲げていた法人税減税(現状の35%を15%に)が実現すれば、企業設備投資の促進要因となりうる。しかし、上記の個人所得税同様に、仮にこれが実現したとしても成長への寄与は2018年以降になる可能性が高い。

純輸出については、2017年を通じてほぼネットで成長にゼロの寄与と見ておく。米貿易収支は昨年後半にかけて輸出増加を主因に改善が進み、成長の押し上げ要因となった。2017年については、米貿易収支の拡大・縮小双方の要因が考えられる。貿易収支改善要因としては、原油価格の回復に伴う海外景気の回復と、トランプ新政権による米企業の生産の国内回帰政策、また内需の減速による輸入減速がある。一方、FRBの利上げはドル高要因となり、これが輸出を抑制する要因となるだろう。これらの要因の効果を現状見積もることは困難であり、現状はネットで貿易収支を横ばいと見ておくことにする。

政府支出については2017財政年度を期限に連邦政府の裁量支出上限が約1兆700億ドルに引き上げられている(2015年超党派予算法)ことから、2017年中は成長にプラス寄与となろう。さらにトランプ新大統領は選挙戦中の公約で、10年間で1兆ドルのインフラ投資を掲げた。年間で0.1兆ドルの財政支出はGDPを年間約+0.5%押し上げる効果がある計算になる。ただしこの財政政策の実現如何はまだ不確実であり、現状の予想にはすべては織り込まないこととしたい。

[第6図]
20170109図6

トランプ政権の政策はネットで上方リスク要因:政治・地政学関連は下方リスク

以上より、2017年の米実質GDP成長率を前年比+2.4%と予想する。これは、2016年の当レポート予想成長率同+1.7%からの加速を意味する。また、これにより2017年末の米国の需給ギャップは約-0.5%にまで縮小する計算になる。ここに、トランプ新政権の財政政策が加われば、さらに成長の押し上げ要因となりうる。一方で、上記で述べたように、米経済が循環的な減速局面にあり、この加速要因の多くが2016年の企業部門の悪化の反動であることを勘案すれば、これが2018年以降も持続的とは言いにくいことは留意すべきであろう。

FRBの金融政策については、2017年に+0.25%づつ3回の利上げが決定され、2017年末のFF金利誘導目標レンジは1.25-1.50%になると予想する。これは、12月18日付当レポート当レポートで考慮した、従前予想の上方修正である。さらに、この予想は今や上方リスクを孕むものとなっている。上記に示した成長予想に基づき、改めてテイラー・ルールによる適正FF金利水準を推計してみると、2017年末の適正FF金利水準は実に約2.6%との結果になった(自然利子率=1.5%の場合)。これは、2017年各四半期+1.5%成長を前提として12月18日付当レポートで推計した約2%からの更なる上方シフトである。また、12月14日のFOMC委員経済予測によれば、2017年の成長率予測中央値は+2.1%(第4四半期前年同期比)であり、これは上記の筆者個人予想の第4四半期前年同期比とほぼ同じ水準である。すなわち、FOMC委員の経済予測に従えば、2017年末のFF金利誘導目標はFOMC委員自身による予測(中央値1.4%)よりも大幅に高めであることが正当化しうることになる。

以上の2017年米経済個人予想に対するリスクは上方にあると見ておきたい。上記では十分に織り込まなかったトランプ新大統領のプロ・ビジネス、プロ・成長政策が実現すれば、ネットで成長押し上げ要因となると見るためである。一方、下方リスク要因にもいくつかのものが考えられる。トランプ新大統領の過激な外交・軍事政策による海外経済の混乱、FRB利上げに伴う新興国からの資金流出による同地域の経済悪化などがグローバルな下方リスク要因である。欧州では、英国のEU離脱手続(1月にEU離脱への議会承認の要否に関する最高裁判決予定)、フランス大統領選挙(4月)、ドイツ総選挙(8~10月)などの政治日程がある。他にISなどの地政学リスクは昨年に引き続き存在している。これら不確定要因の中、当レポートの予想も適宜適切な見直しを迫られる可能性が高そうだ。

なお、筆者個人の経済・金融予想アップデートを[第3表]に示す。

[第7図]
20170109図7

[第3表]
20170109表3

(訂正)1月15日、[第3表]の日本の2016年及び同年度の実質GDP予想数値を訂正しました。
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