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<経済レポート> シナリオ通りの進行:トランプ大統領就任2ヶ月

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トランプ米大統領の就任から2ヶ月が経過した。この間金融市場では株価が上昇、経済指標も雇用を中心に順調である。トランプ氏は就任後日米首脳会談、施政方針演説、予算教書(概要)の提出などをこなし、更に多数の大統領令に署名した。これまでの動きはほぼ就任前の公約に沿ったもので、いわばシナリオ通りの進行といえる。しかし各政策は具体化には至っておらず、経済効果の年内発現は依然困難とみる。

就任以来経済・金融は好調

ドナルド・トランプ氏が1月20日に米大統領に就任して2ヶ月が経過した。現在のところ選挙前に懸念されていた経済・金融・政治上の大きな混乱はない。NYダウは1月の就任時点で19800ドルレベルにまで上昇していたが、その後にさらに上伸し17日現在20914ドルにある。ミシガン大学消費者信頼感指数は3月速報値で97.6ポイントと、昨年11月の大統領選挙直後の93.8ポイントから上昇した位置にある([第1図])。実体経済指標にはまだトランプ大統領の政策影響は反映されていないが、非農業部門雇用者数が2月まで2ヶ月連続で前月比+200千人を超える増加を見せるなど好調に推移している。本レポートでは、1月22日付当レポートでみた大統領就任演説以降の同氏の動向を振り返るとともに、今後の米経済への影響を見ていく。

トランプ大統領就任後の日本にとって最初の大きなイベントは、2月にワシントンDCで行われた安倍首相との日米首脳会談だった。外交・経済問題いずれにおいてもこの会談は日本にとり有効な結果をもたらしたといえる。2月10日に公表された共同声明では、普天間飛行場代替施設の辺野古地区への建設、尖閣諸島への日米安全保障条約の適用、という2つの大きな軍事上の確認がなされた。経済関係においては、「自由で公正な貿易のルール」との文言が明記されたうえ、米国の環太平洋パートナシップ協定(TPP)からの離脱をふまえて日米間の二国間協議(日米経済対話)の設置が合意された([第1表])。

トランプ大統領は、選挙期間中に米国軍事外交における日本の位置づけを見直すともいえる発言をしていた(日米安保における日本への負担増要求発言-2016年5月5日付共同通信報道等)。これに対して、首脳会談において米国による日本の安全保障へのコミットを引き出し日本の立場を確認させた意義は大きい。また、保護主義を標榜するトランプ政権から共同声明において「自由で公正な貿易」の文言を引き出したことも同様に日本にとり大きな意義である。一方で米国のTPPでの多国間協議離脱を踏まえ、ただちに二国間協議を設置する方針に切り替えたことは、極めて機動的な対処といえる。TPP離脱や在日米軍費用の負担などのトランプ氏の方針に違わぬよう配慮しつつも、策定された合意事項は日本にとり外交上の一つの収穫だったといえる。

トランプ大統領は日米首脳会談において、その保護主義政策や「ジャパン・パッシング」的な考え方を少なくとも一時的に封印した。共同記者会見でトランプ氏は「経済について、我々は自由・公正・互恵的な通商関係を追求する」と明言した。日本の製造業は対米輸出や米国現地生産にその事業の多くを依存していることから、「米国第一」を標榜するトランプ政権との関係において、日系企業が必要以上のデメリットを蒙らないことが重要である。同会談は少なくとも日米通商関係において日本側がまず機先を制したといえる。今後については、(安倍首相が記者会見で複数回に亘り言及した)麻生副首相とペンス副大統領の下の日米経済対話において自由で公正な二国間交渉が行われるかを点検していくこととする。

[第1図]
20170321図1

[第1表]
20170321表1

上下両院会議演説では従前の政策を主張

2月28日、トランプ大統領は米議会上下院合同会議で(施政方針)演説を行った。これは、就任2年目以降の大統領が行う一般教書演説に相当する(就任直後の大統領の同演説は一般教書演説と称さないのが慣例)。この演説でトランプ大統領は、就任演説と同様過激な発言を慎重に避けた。また、一部の政策(移民政策改革、オバマケア廃止)については共和党・民主党の協調を呼びかけるなど、米国大統領としての立場を踏まえた演説を行ったといえる。一方で「私の仕事は世界を代表することではない、私の仕事はアメリカ合衆国を代表することだ」とナショナリスト的な考えを表象する発言もしている。

総じて同演説で表明された政策群は、これまでのトランプ大統領の政策と整合する内容である([第2表])。トランプ氏は演説の前半で、昨年の11月の当選以来の実績を述べた。それらの中には、複数の大企業が米国への投資を表明したこと、当選以来の株価の上昇、のほか、就任以来の大統領令で指示された諸事項が含まれている。主な実績として、行政機関高官の退任後のロビイング活動の禁止、1つの新規規制導入毎に2つの既存規制禁止、ダコタ・アクセスパイプライン建設の認可方針などのエネルギー政策、TPPからの離脱、移民の入国制限(1月27日大統領令で指示されるも米国第9巡回区控訴裁判所により差止め)、メキシコ国境への壁建設開始、などが述べられた。

演説の後半では、「次のステップ」として「税制改正」「移民受け入れ政策の転換」「1兆円のインフラ投資」「オバマケアの廃止」「軍備の拡張」などの今後の政策が述べられた。特に税制改正とオバマケア廃止については演説テキスト上相応の紙数を割いてこれらにかける意気込みを示した。税制については、米ハーレー・ダビッドソン社との会話を引用して、米国への輸入関税と輸出関税の不公平により米企業の海外事業が抑制されていることを主張。また医療保険制度については、「5つの原則」をしめして国民が自由に医療保険を選択できるべきことを主張した。「次のステップ」で示されたこれらの政策の一部はすでに、下院共和党による法案や、16日に議会に提出された大統領予算教書のブループリントによりある程度具体化されつつあるものもある。

総じてトランプ大統領の施政方針演説は、これまでの同氏の政策と整合する内容だった。しかし、トランプ氏が「次のステップ」と称した施策のうち、年内の実現が見通せる程に具体化しているものはない。北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉はまだ具体的な大統領令や法案の形になっていない。NAFTAの相手国であるメキシコに対してトランプ氏は壁の建設を引き続き主張するなど強硬姿勢を続けている(メキシコのペニャニエト大統領は1月25日の大統領令を受け、予定されていた米墨首脳会談をキャンセルした)が、もう一つの相手国であるカナダに対しては、2月14日のトルドー加首相との会談において友好関係を演出し、通商問題への重要な言及はなかった。税制改正は、法人税・所得税減税とこれを補完する国境税の創設が主たるアジェンダであり、これらを含む包括的税制改正については既に昨年2016年6月24日に下院共和党がブループリントを公表している。しかしトランプ政権自身による具体的改正案はまだ公表されていない。オバマケア廃止については、3月6日に下院共和党が代替法案たる米国ヘルスケア法案(American Health Care Act)を公表しているが、本案の審議はこれからである。

[第2表]
20170321表2

予算教書ブループリントは具体性に欠ける

16日に米行政管理予算局(OMB)は、大統領予算教書の簡易版ともいえる「米国を再び偉大にする予算のブループリント」”A Budget Blueprint to Make America Great Again”を議会に提出した。大統領予算教書は毎年2月頃に提出されるのが慣行である。トランプ大統領はこれを3月に後倒しかつこれを簡易な「ブループリント」の形で公表した。この手続きは慣行に照らし異例であるのみならず、その内容は、トランプ政権の財政政策がいまだ具体的な数値の積み上げで裏付けられていないことを示唆するものであった。

「ブループリント」の巻頭言においてトランプ大統領は「政府債務増加を伴わない防衛費大幅拡大」「移民統制予算の著しい増加」「メキシコ国境の壁や警備等への追加措置」「凶悪犯罪対応予算の拡大」「米国内の税収増加」の5つを同書の主要な政策として挙げている。しかしこれに続く本文には、通常の予算教書に見られる、経済財政分析や大統領予算案の概要を解説する章がなく、巻頭言の後すぐに省庁毎の予算の記述に入っている。またその予算案は主に歳出面のみで成り立っており税収入など歳入面の数値記載がない。また歳出についても国防費など裁量的支出に関する事項に限られており、社会保障費などの義務的支出については多くが語られていない。

「ブループリント」に見られる財政政策案は以下に要約できる。すなわち、国防費を大幅増加させる一方でその他の裁量的支出を削減し、ネットで裁量的支出を削減するというものである。同案によれば、2018財政年度において、国防省(前年度比+523億ドル)、国土安全保障省(同+28億ドル)、退役軍人省(同+44億ドル)などの予算を増額するとされている。これは国防費の大幅増加というトランプ氏の公約の反映である。一方で保健福祉省、教育省、国際開発庁などその他のほとんどの省庁の予算削減を謳っている。結果ネットで-136億ドルの裁量的支出の削減を要請している([第3表])。なお、国防予算の増額に当たっては、従前のトランプ氏の公約通り、2011年財政管理法による国防支出上限と削減義務を撤廃することが謳われている(1月22日付当レポート参照)。総じてこの予算案はこれまでのトランプ氏の発言や政策に整合するものである。特に国防と退役軍人に手厚い予算を配賦する一方で、保険、教育、対外開発援助に関する予算を削減していることは、同氏の政策をよく反映している。

「ブループリント」は大統領予算教書としては未完成であり、これまでのトランプ大統領の発言等から大きく踏み込んだ具体策が示されたとは言いにくい。同書はトランプ氏の政策の特徴を明瞭に反映したシンプルな構成である。しかし、具体的な政策の実現に向けては、マクロの観点からの分析影響分析の裏付けを十分に手当てしたうえで、最終的な大統領予算教書の提出に進むことが必要であろう。その為には、連邦行政機関等の高官任命やスタッフ人事の整備を早期に実施することが必要となろう。「ブループリント」はトランプ氏の財政政策の年度内の実現は困難との当レポートの見方を支持する内容だったといえる。

[第3表]
20170321表3

成長見通しへの反映は時期尚早:ネットで押し上げ効果との見方は維持

以上、就任以来のトランプ大統領の主に経済に関する政策の動向を見てきた。ここまでのトランプ氏の動きには大きな政策転換などのサプライズはなく、概ねシナリオ通りの進行だったといえる。しかし、同氏の政策は、いまだこれらを米国の成長予想に反映するほどには具体化されていない。筆者個人は従前より、トランプ氏の政策が結果的にネットで米経済成長にプラスの効果をもたらすと見ており、現状ではその見方を維持する。しかし、FRB連邦公開市場委員会(FOMC)がいまだ新政権の政策の経済見通しへの影響の反映を見送っているように、詳細な影響分析に耐える定量的材料をまだトランプ政権は提供していないといえる。現状では、今後具体化が見込まれその経済的影響が大きいと見込まれる政策として、①税制改正、②オバマケア廃止、③1兆円のインフラ投資、を挙げておきたい。

①税制改正、は大きく法人税・所得税減税と国境税導入に分かれる。トランプ大統領は2月9日に「意欲的な税制改革プランを数週間以内に公表する」ことを表明した(各種報道による)が、その後具体的な公表は大統領からは聞かれない。また予算教書「ブループリント」においても税制に関する記述は見られなかった。しかし、筆者個人はこの税制改正が米経済成長に最も大きな押し上げ効果をもつ政策だと見ている。包括的な税制改正案として2016年6月24日に下院共和党が税制改革案”A Better Way-Our Vision for a Confident America”を公表済である。今後議会では本案を中心に審議がなされるだろう。

②オバマケア廃止については、3月6日に下院共和党が代替法案たる米国ヘルスケア法案”American Health Care Act”を公表している。オバマケア廃止には法令改正の他、オバマケアで構築した国民皆保険に関する各種制度やインフラの改廃が必要であり、これも1年程度での実現は難しそうである。しかしオバマケア廃止は従前からの共和党議員の政策であり、トランプ大統領と議会が一致する政策の一つである。したがって同法案の審議は予想以上に早期に進む可能性はある。

③1兆円のインフラ投資についてトランプ大統領は選挙期間中の公約からほとんど具体的な踏み込んだ内容がみられない。むしろインフラ投資は野党の民主党の政策に整合するものである。上院民主党は1月24日に、10年間で1兆ドルのインフラ投資計画案”A Blueprint to Rebuild America’s Infrastructure”を公表している。

なお、就任以来これまでにトランプ大統領が署名した大統領令・大統領覚書の一覧を[第4表]に示す。

20170321表4
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