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<経済レポート> 踊る、されど進まず:米トランプ政権の100日

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トランプ米大統領就任100日が経過した。当初順調に見えた政策の実施は、オバマケア廃止法案撤回を機にやや足踏み状態にある。米経済成長ペースは1-3月期に大幅減速した。総じて、トランプ大統領の政策効果が実体経済に直接与える効果は年内には期待しにくい状況は不変である。2017年の成長予測にはやや下方リスクがでてきているが、それでも通年2%成長は可能な状況と見ておきたい。

オバマケア廃止法案でつまずき

トランプ米大統領が1月20日に就任してから、4月29日で100日が経過した。トランプ氏は自身のHPで「就任以降500千人の雇用増」「ダコタ・アクセス・パイプライン建設許可」など多くの実績を100日間の実績として挙げた。実際、トランプ氏が当選後に掲げた100日計画の多くは実施または大統領令等により指示がなされている([第1表])。一方で、オバマケア廃止法案の廃案などとん挫した選挙戦時公約もある。また財政については、2月に公表した「大統領予算教書ブループリント」以来、最終的な教書は公表されていない。3月21日付当レポートでは、トランプ政権の政策を「シナリオ通りの進行」としていたが、その後の動向からはこの見方をやや修正する必要がありそうだ。本レポートでは、トランプ政権の100日のうち主に3月21日付当レポート以降の動向を検証し、米経済見通しへの影響を探る。

トランプ氏のいわば最初のつまずきともいえる事態が、3月24日のオバマケア廃止法案撤回である。米議会下院共和党は3月6日、オバマケアの代替案である”American Health Care Act of 2017(H.R.1628)"を公表、20日に議会に提出した。同法案は、2010年にオバマ政権下で成立した医療保険制度改革法(Patient Protection and Affordable Care Act)による制度の廃止を謳ったものである。同法案では、医療保険未加入者宛罰金、拡大メディケイド(低所得者等向医療保険)、個人医療保険加入者宛税還付、州医療保険安定化基金宛補助、医療品メーカー・保険会社・高額所得者増税、等が廃止される予定であった。同法案が実施された場合、10年間に3370億ドルの財政赤字削減効果と3月13日に米議会予算局(CBO)が試算していた。

報道等によれば、共和党内で拡大メディケイド廃止への反発があった模様で、その後メディケイド縮小幅を緩和した修正案が提示された。3月23日のCBO試算では、財政赤字削減効果は10年間で1500億ドルに縮小していた。しかしながら、共和党内での同法案に対する支持が十分に得られず、3月24日、ライアン下院議長はトランプ大統領との協議の結果、同法案の採決を無期限延期することを表明した。

[第1表]
20170430b図1

税制改革案は項目のみ

日本との関係においては4月18日、麻生副総理とペンス米副大統領の第1回日米経済対話が開催された。共同プレスリリースによれば、①貿易及び投資のルール/課題に関する共通戦略、②経済及び構造政策分野における協力、③分野別協力、の3つの政策の柱につき合意した。特に注目の高い「貿易及び投資のルール」については、「高い貿易及び投資に関する基準についての二国間枠組み」について取り上げることで一致したとされ、TPP脱退後の米トランプ政権が選好する2国間の通商協定が基軸になることが明確化された。2月10日の日米首脳会談では、主に安全保障について日本側が米国のコミットを引き出したが、経済対話では通商問題につきあくまで二国間の交渉を基礎とするという米国側の意向が再確認された形だ。

税制改革については、4月26日「経済成長と米国雇用のための2017年税制改革(2017 Tax Reform for Economic Growth and American Jobs)がホワイトハウスから公表された([第2表])。この改革案はほぼトランプ氏のこれまでの公約に沿ったものである。しかし公表文は1ページの箇条書きにすぎず、具体的な改正案とは言い難い。例えば個人所得税の税率区分の課税所得額が明示されていないなど、税制としての必要要件が満たされていない。3月16日に公表された大統領予算教書の簡易版ともいえる「米国を再び偉大にする予算のブループリント」も、従来の予算教書の冒頭部分のみからなるシンプルなもので、具体的数値のないものであった。財政に関するトランプ大統領の政策の具体化は、想定よりも遅れていると言わざるを得ない。

また、米政府財政は法律上の困難に直面している。まず、3月15日時点で政府債務上限の不適用措置が期限を迎えており、政府は債務を増加できない状態にある。政府債務上限は2015年超党派予算法により3月15日まで不適用とされていたがその期限が到来している。また、2016年10月に開始された2017会計年度予算はまだ正式成立しておらず、暫定法による4月28日までの暫定予算にとどまっている。米議会は28日、予算を5月5日まで1週間延長する法案を急きょ可決し、政府閉鎖は免れた。米議会における暫定予算延長法案の成立がギリギリまでずれ込んだ背景には、トランプ大統領が「メキシコとの国境の壁」関連予算を盛り込むことを主張したことがあるとされる。最終的には大統領がこの提案を撤回したことで予算延長は成立した(各種報道による)。基本的に、軍事関連を除いて政府支出はこうした制約下での運営を強いられている。予算執行にかかる不安定感は続きそうだ。また、同超党派予算法では、2017会計年度予算までに限定して裁量支出上限を引き上げている。さらに、2018会計年度以降は、2011年予算管理法に基づく歳出自動削減が再開される。トランプ大統領はこの自動削減を撤回する法案を議会で成立させる意図である(「ブループリント」)。しかしその法案はまだ具体化されておらず、同政策の見込みは立っていない。

[第2表]
20170430b図2

米経済は1-3月期に減速:政策効果は限定的

米経済成長の実績は当レポートの個人予想をやや下回って推移している。1-3月期の実質GDP成長率は前期比年率+0.7%の成長にとどまった(4月30日付<経済指標コメント>参照)。成長減速の主因は個人消費の減速である。1-3月期の実質個人消費は同+0.3%の伸びにとどまった。内訳は耐久財消費同-2.5%、非耐久財消費同+1.5%、サービス消費同+0.4%で、これまで消費をけん引してきた耐久消費財特に自動車販売の減速が消費減速の主因であることがわかる。3月時点で雇用増加ペースは前年比+1.5%程度、賃金上昇率を加えた名目購買力は同+3.6%の伸びとなっている。インフレ率が2%に接近していることを勘案すれば、実質ベースの消費者購買力の伸びはすでに2%を割り込むまでに減速していることになる。

一方で企業部門は回復を続けている。1-3月期GDP統計における設備投資は同+9.4%と、2013年10-12月期以来の強い伸びに回復した。背景には在庫調整の終了と海外景気の安定化がある。総じて、個人消費も7-9月期以降2%弱のペースに回復すれば、通年で2%の成長はまだ可能な状況である。1-3月期の減速の要因には留意しつつも、米経済見通しを大きく引き下げる必要は現状ないと見ておきたい。

トランプ政権発足後、そのプロ・ビジネスな政策を好感して株価は上昇、消費者センチメントや企業景況感指数も上昇している。トランプ政権の経済政策は主に金融市場とセンチメント面ではその効果が目に見えているといえる。しかし、実体経済に働きかける政策の見通しは上述の通りまだ不透明である。トランプ政権の政策が米実体経済に直接与える影響についての試算はまだ困難である。政策が予定通り実施されればネットで経済にプラスの影響との見方は維持するが、少なくとも2017年の成長率に与える影響は極めて限定的となるだろう。

内外にリスク要因あり:政策効果は来年以降に

経済関連以外では内外に様々な不安定要素があることは従前と変わらず、定点的な観測が必要である。トランプ大統領はシリアの化学兵器使用の情報を機に4月6日にシリア空爆を開始した。また、北朝鮮の度重なる核実験実施やミサイル発射に対し、日本近海への空母派遣や日米合同軍事演習を開始するなど牽制を強めている。国外では、3月29日に英メイ首相がEU離脱を正式に通知、さらに4月18日にメイ首相は6月8日に総選挙を前倒し実施することを表明した。フランスでは23日に大統領選挙第1回投票が実施され、中道独立系のマクロン氏と極右派のルペン氏が7日の決戦投票に進むこととなった。

トランプ政権と中国との関係は、選挙戦時に比べてやや緩和方向にシフトしている模様だ。4月6、7日には米中首脳会談が実施された。その後14日に公表された半期毎の議会宛為替報告書において米財務省は、中国や日本を含むいずれの主要貿易相手国をも「為替操作国」に認定しないとした。ただし同報告書では中国につき「10年にわたる為替介入で人民元の上昇を阻止」「中国の為替政策は米国雇用者と企業に長きにわたり著しい困難をもたらした」「中国通貨のため、米国との間に極めて大きな貿易黒字が続いている」などと批判的な分析を行っている。一方で最近の中国の為替介入が「人民元の減価を予防する」方向でなされていることを評価、「米財務省は中国の通商と為替政策を注意深く監視する」としている。なお、トランプ大統領はこれに先立つ3月31日に、「重大な貿易赤字に関する総括的報告」との大統領令に署名、米国が貿易赤字を有する主要貿易相手国の貿易保護政策や不公正な通商制度等についての報告書を90日以内に提出するよう商務長官と通商代表に指示した。

トランプ政権発足100日で、当初のプロ・ビジネスな政策の実施スピードにやや陰りがみられることは否定しえない。トランプ氏のパフォーマンスに比して、特に財政政策の具体化が進展しないことで、実態的な政策運営が「踊る、されど進まず」という状況になりつつある。また、議会共和党との不協和も今後の法案成立に向けた新たな課題である。2月時点で「シナリオ通り」とみていたトランプ氏の政策運営がそのペースをやや落とし、実体経済への効果は少なくとも来年位にまで先延ばしになる可能性が高い。当レポートの2017年米経済成長予想にはいまだトランプ政策効果は反映していない。その意味ではこれまでの予想の前提は維持することができそうだ。

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