<経済レポート> 半歩前進:オバマケア代替法案下院可決

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米議会下院は一転してオバマケア代替法案を僅差で可決した。同法案は、国民皆保険制度や企業増税を含むオバマケアのほぼすべての政策を撤廃する内容である。トランプ大統領及び共和党の悲願達成に半歩前進した形だが、上院での可決にはハードルが残るうえ、財政・経済への効果はネットでは限定的であり、経済的観点からはオバマケアの廃止は同制度の成立と同じく象徴的存在にとどまる可能性もある。

米議会下院は代替法案を可決:上院可決にはまだ道のり

米議会下院は4日、オバマケア代替法案(American Healthcare Act of 2017 H.R.1628)を可決した。去る、3月24日に共和党のライアン下院議長は同法案採決の無期限延期を発表していた。報道等によれば、拡大メディケイド撤廃など一部の条項につき共和党内の支持が得られなかったことがその背景とされているようだ。この延期表明からちょうど6週間の間に党内調整がなされ、過半数の賛成票が獲得できると読んだ時点での採決実施だった模様だ。ただし、採決結果は217-213の僅差だった。民主党議員193名は全員が反対票、また共和党議員のうち20名も反対票を投じた。

同法案は次に米議会上院に送付される。しかし上院の採決ルールでは、採決実施のための審議打切り動議可決に60の賛成票が必要となる。現在の上院の勢力図は共和党52議席、民主党46議席、独立系2議席で、共和党は審議打切り可決に必要な多数を有していない。さらに上院共和党内に同法案に反対の立場をとる議員も存在することを勘案すれば、上院での可決には相当の党内調整、または修正法案の提出が必要となる可能性が高い。

報道によれば、マコネル上院院内総務率いる上院共和党のワーキンググループでは、特に高齢者の医療保険料を相対的に高額にする同法案の条項の変更等を中心に、修正案の起草が開始される見込みである(5月5日付WSJ紙)。さらに、上院での審議打切り動議可決に60票の賛成を必要としない方策を同時に探る必要がある。例えば、2010年3月のオバマケア法案成立の際、当時の政権党であった民主党は、予算にかかわる法案は過半数の賛成で審議打切りが可決できるという上院ルールを適用して、オバマケア法案と同時に予算和解案(Reconciliation Bill)を提出することで同法案を可決した。4月30日付当レポートで「踊る、されど進まず」としたトランプ大統領の政策は、オバマケア廃止については半歩前進したといえるが、法案成立までにはまだハードルが残っているといえる。

オバマケアと同代替法案の概要

ここで、いわゆるオバマケアとその代替案の内容を概観する。いわゆるオバマケアは2010年3月に成立した医療保険制度改革法(Patient Protection and Affordable Care Act =ACA)を根拠法とする。同法は原則として米国の個人の医療保険加入を義務付けることをその主たる趣旨としている。当時の米国には、先進国では珍しく国民皆保険制度がなかった。個人は各自の判断で保険会社の提供する(または雇用主が指定する)医療保険に加入する制度だった。その為国民の約16%(48.6百万人)が保険未加入であった(米保険福祉省National Health Interview Surveyによる)。多くの保険未加入者の存在を民主党は大きな社会問題とみていた。無保険者は十分な医療を受けられず、また緊急医療措置に対する医療費支払が滞るなどの問題があった。オバマケアはかかる事態の改善を意図して設立された国民皆保険制度である(その骨子は[第1表])。その内容は、個人に対する保険加入義務と違反への罰金、個人が保険を比較の上加入できるための医療保険取引所の開設、などからなっている。結果、2016年9月時点で米国民の保険未加入率は8.8%(28.2百万人)にまで低下した(米保険福祉省)。

一方で、オバマケアには反対意見も根強く、共和党は成立以来同法の廃止を党政策に掲げてきた。国民皆保険実現のための低所得者宛補助金制度に伴う財政支出拡大といった財政問題がその要因のひとつである。また、国民の間にも、医療保険拡充による保険料の上昇に伴う不公平感からオバマケアに反対する論調があった。また。オバマケアは取引所改設補助やメディケイド拡充に伴う財政支出拡大を、保険会社・医療関連企業・高額所得者等への増税で賄う仕組みとなっており、民主党オバマ政権の再配分重視政策が強く反映されていた。

オバマケア代替法案は、これらオバマケアの主要政策をほぼ廃止する内容である。個人の保険非加入者への罰金廃止による国民皆保険制度の事実上の停止、オバマケアに伴い導入された企業増税の停止などがその骨子である。さらに同法案では、取引所外での保険加入者に対する税還付実施など、オバマケアによらない保険加入を促進する内容となっている。一方で、オバマケアが掲げたメディケイド拡大条項の停止は、共和党議員の一部から、有権者の支持を失う虞があるとして反対があった。その為、メディケイド縮小の規模を緩和した修正法案が呈示されるに至ったが、3月の同法案採決延期決定は主にかかる共和党内反対派の支持を取り付けるにいたらなかったことが背景であった。

[第1表]
20170513図1


代替法案は財政赤字削減と企業キャッシュフロー改善に効果あり

オバマケア代替法案が財政と経済に与える影響をみる。同法案は、財政赤字削減を標榜する共和党の政策に合致したものといえる。ただし、メディケイドなど医療制度の後退は一部共和党議員からも反対が出ていることから、今後の上院での修正案次第では財政への影響は変動しうる。同法案は、オバマケアによる連邦政府の医療費支出、特に保険加入促進のための補助金やメディケイド支出に関する財政支出削減効果がある。一方で、企業や個人に対する増税を撤廃することで歳入の減少をもたらす。同法案が施行された場合、財政赤字のネット削減効果があると試算されている。米議会予算局(CBO)は3月13日時点で、同法案(当初案)が実施された場合、10年間に3370億ドルの財政赤字削減効果があると試算していた。しかし、メディケイド縮小内容を緩和するなどした修正案に基づく3月23日のCBO試算では、財政赤字削減効果は10年間で1503億ドルに縮小している([第2表])。

オバマケア代替法案は、政府支出がネット削減される一方、民間の税負担軽減による成長への寄与が期待できる。CBOによる財政影響見積もりの内訳は、歳出減が10年間で1兆1498億ドル、歳入減が9995億ドルとなっている。10年間で1兆1498億ドルの財政支出削減は1年当たり1149.8億ドル、これは2016年の米国の名目GDP総額18兆5691億ドルの約0.6%に相当する。一方で、増税撤廃等による民間の税負担減少は10年で9995億ドル、1年当たり999.5億ドルで、これは同じく名目GDPの約0.5%に相当する。ネット財政赤字削減は成長に対して年間約-0.1%程度の押し下げ効果が発生する計算になり、乗数効果による成長へのマイナスの効果が出ることになる。

オバマケア代替法案単独では、財政・経済に対してネットではほぼニュートラルの影響にとどまるとみておく。民間部門に限って言えば、オバマケアで賦課された増税が緩和されることで、成長へのプラスの貢献が期待できる。業種としては、増税の対象となっている保険会社、薬品会社、医療品メーカーなどがその恩恵を受けるだろう。一方で、オバマケアが国民の医療保険加入者数を拡大したことは事実であり、オバマケア廃止による保険会社の加入者減や、医療サービス提供の減少に伴う医薬品販売減などのマイナス影響もこれらの業種にはありうるところである。また、トランプ政権は別途インフラ投資や国防費などの歳出増や、税制改革による減税を政策に掲げている。これらインフラ投資や税制改革による財政・経済への影響の方が、オバマケア廃止による影響よりも相対的にはかなり大きそうだ。


[第2表]
20170513図2


ネットでは経済への影響は限定的:政府は8月以前に上院採決を目指す

一方で、オバマケア廃止に伴う個人への減税については、これが主に高額所得者に恩恵をもたらすものであるとの見方もある。米調査会社Tax Policy Centerの推計によれば、オバマケア廃止に伴い、所得額上位約13%の個人に対しては2022年時点で年間約2830ドルの連邦所得税減税効果があるのに対し、所得額下位約27.4%の個人に対しては、年間10ドルの増税効果があるとされている(3月22日付Tax Policy Center推計)。この結果は、低所得者への補助金配賦の廃止や、高額医療保険への消費税廃止などの政策内容と整合している。また、一般に高額所得者に有利とされる共和党の政策とも整合する結果である。

オバマケア代替法案の下院可決は、トランプ大統領の従前からの公約実現と、共和党の政策実現とに一つの前進をもたらす大きな契機だといえる。トランプ大統領にとっては、就任前の目玉政策が一度は頓挫したものの見事にリカバリーした。共和党にとってはオバマケア成立以来の悲願だがようやく現実的になった。しかし、CBO推計による同法案の財政赤字削減効果は現状のところ限定的である。減税による成長押し上げ効果も、医療支出削減により概ね相殺される可能性がある。オバマケア自体が民主党オバマ大統領の政策の象徴的存在であったように、その撤廃も共和党トランプ大統領の政策の象徴的存在にとどまる可能性はある。

さらに、同法の完全成立にはまだハードルが残る。上述の通り、米議会上院では共和党による修正案の起草と、同法成立のための審議打切り動議をクリアする方策が立てられねばならない。しかし共和党政府は同法成立に極めて意欲的である。報道によれば、プライス米保健福祉長官は、議会が休会になる8月以前に上院で同法を採決することは可能との見通しを示した(5月12日付The Hill)。

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