<経済レポート> フル稼働状態:日本経済定点観測

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日本経済は家計消費と輸出増を背景に成長が加速している。今後年内はややペースを落として潜在成長率程度の成長を維持し、通年成長率は+1%程度になると個人予想する。日本経済は完全雇用状態にあり、マイナス需給ギャップもほぼ解消したフル稼働状態にあるといえる。もっともインフレ率2%の達成には構造的な政策が必要で、日本銀行は年内量的・質的緩和政策を現状維持すると見る。

家計消費が堅調に成長をけん引

5月18日に公表された1-3月期の日本の実質GDP成長率(1次速報値)は前期比年率+2.2%と予想以上の拡大となった。結果日本経済は5四半期連続で潜在成長率(内閣府推計では同+0.8%)を超える成長となった。1-3月期の成長をけん引したのはまず家計消費である。GDP統計上の実質家計消費は同+1.4%と前期の同+0.1%から大幅に回復し、成長率を+0.8%押し上げた。総務省家計調査によれば、4月に入っても実質家計消費支出(二人以上の世帯)は前月比+0.5%とまずまずのスタートとなっている([第1図])。

今後も年内の個人消費は前期比年率+0.5%程度の安定した拡大を続けると見る。中期的に見ると個人消費は、2014年4月の消費税率引上げ以後現在までの3年間ほぼ一貫して前年比マイナスの伸びが続いており、低迷が続いていると言わざるを得ない。しかし今後については徐々に持ち直しが期待できる兆候がみられる。現金給与総額(所定内給与)は名目ベースで概ね前年比+0.3~0.4%の伸びを維持している([第2図])。失業率と名目賃金の関係を示すシンプルなフィリップス曲線によれば、4月現在の失業率(2.8%)に相当する賃金上昇率は前年比+1.2%と推計される([第3図])。今後も現在の低失業率が継続すれば、賃金上昇ペースは加速する可能性がある。インフレ率は2017年末にかけて前年比約+0.7%程度の上昇にとどまると見ることから、実質ベースでの家計消費の約+0.5%程度の成長維持が理論上は可能ということになる。

労働市場と家計消費を取り巻く環境は一進一退ではあるものの、今後の悪化が見込まれる状況ではない。労働市場はほぼ完全雇用状態にあり、人手不足がますます明かになっている。社会的には、同一労働・同一賃金など賃金格差是正の動きが広がっている。企業のベースアップも引き続き期待できる。街角景気を表す内閣府の景気ウォッチャー調査は横ばいを示す50ポイントをやや割り込む水準にあるが、昨年春以降はほぼ一貫して上昇基調が続いている。

[第1図]
20170604図1

[第2図]
20170604図2

[第3図]
20170604図3

企業部門の回復は一服感

企業部門は昨年来の回復基調にやや一服感がみられる。資本財出荷は1-3月期に4四半期ぶりに前期比減少し、1-3月期のGDP統計上の実質設備投資は前期比年率+0.1%の伸びにとどまった([第4図])。しかし前年比の伸び率は+3.2%と2四半期連続で伸びを加速させている。企業部門の回復の背景には、海外景気回復による輸出増加と在庫調整の終了がある。在庫循環図は在庫積み増し局面に入りつつあり、今後企業の生産が増加して設備投資が堅調に拡大する可能性を示唆している([第5図])。設備投資は今後も年内に前期比年率+2~3%の成長を維持すると見る。日銀短観3月調査によれば、2017年度の設備投資計画(除く土地投資額)は前年度比+3.1%と、2016年度の修正計画同-1.5%からプラスに転じている。企業部門は回復しているものの、今後の見通しについては、地政学リスクや欧米政治などに不確実性が高く、為替相場変動も見通しが立てにくい状態にある。その為、設備投資はプラス成長を維持するもののその拡大ペースは緩やかなものにとどまると見ておきたい。

財・サービス収支は、2016年度に輸出の大幅な拡大により成長にプラス寄与した([第6図])。海外景気の回復がその主な背景といえる。今後も輸出は堅調に拡大して、純輸出が成長にプラスの寄与を続けると見る。しかしながら一方で昨年11月の米大統領選以降急激に進んだ円安が、1月をピークに円高方向に転じていることは、輸出に対する下方リスク要因である。

以上から、今後年度内において実質GDP成長率は潜在成長率に近い+0.8%程度の成長を維持すると見る。1-3月期の成長加速は、家計消費と純輸出がけん引したが、在庫投資も+0.5%の寄与度を占めている。家計消費・設備投資・住宅投資を合わせた国内最終民間需要は前期比年率+1.4%と+1%台の成長である。4-6月期以降は家計消費が減速することを勘案すれば、持続可能な成長ペースは同+1%弱とみるのが妥当であろう。結果2017暦年成長率は前年比+1.3%、2017年度成長率は前年度比+1.1%と個人予想する。これらは、1月時点の当レポートでの個人予想比若干の上方修正となる(1月15日付当レポート参照)。上方修正の主要因は、主に1-3月期の成長実績が予想を上回ったことである。

[第4図]
20170604図4

[第5図]
20170604図5

[第6図]
20170604図6

経済は完全雇用でフル稼働状態

マクロ的に見ると、現在の日本経済はほぼその供給力一杯の状態で稼働しているといえる。コアインフレ率(生鮮食品を除く総合消費者物価指数)の変化と失業率実績との関係からの筆者個人の推計によれば、2017年1-3月期時点の自然失業率は約3.6%となる。現在の失業率2.8%はこれを-0.8%も下回る水準であり、労働市場は完全雇用から需要超過にあるといえる([第7図])。内閣府の推計する潜在GDPと潜在成長率をもとにした試算では、日本のGDPギャップは1-3月期時点で-0.1%とマイナス需給ギャップがほぼ解消した計算になる。今後年内に日本経済が潜在成長率(内閣府推計では+0.8%)を維持すれば、日本の需給はほぼ均衡した状態で推移することになる([第8図])。

しかしながら、マイナスの需給ギャップの解消だけではインフレ率の急上昇は見込みにくい。需給ギャップとインフレ率との相関からは、需給ギャップ0%に相当するコアインフレ率は前年比約+0.4%と計算される([第9図])。これまでの消費者物価指数の推移からは実際には2017年末にコアインフレ率は同+0.7%程度には上昇すると個人的には見ている。しかし日本銀行の目標とする2%インフレ率の実現には+5%を超える大幅な供給超過が必要になる計算になる。これは現実的には考えにくい数字であり、2%インフレ達成のためには、労働市場の流動化によるフィリップス曲線の上方シフト政策などが必要である状況は従前と変わらない。

もっとも、需給ギャップとインフレ率の関係を示す曲線の形状からは、需要超過状態になるとインフレ率の上昇ペースが加速する傾向が見て取れる。今後仮に日本が潜在成長率を超えるペースで拡大を継続すれば、需給ギャップが2%程度の需要超過になったところで2%インフレ率を実現する蓋然性はあるといえる。ちなみに、日本経済は金融危機直前の2007年頃に+1%半ばの供給超過状態にあり、そのごややラグを置いて2008年には一時的に2%台のインフレ率を実現したことがある。

[第7図]
20170604図7

[第8図]
20170604図8

[第9図]
20170604図9

金融政策は現状維持と見る

日本銀行の金融政策については、年内は現状の金融政策すなわち「長短金利操作付き量的・質的緩和」を維持すると見る。日銀当座預金の政策金利残高への-0.1%のマイナス金利付利、10年物日本国債金利をゼロ%程度への誘導という操作目標も、おそらく年内は維持されるだろう。上記の通り成長率は潜在成長率を超え、インフレ率も名目上は今後プラス圏を維持して上昇していくと筆者個人は見ている。この予想の下では、追加的な金融緩和を正当化する材料は見当たらない。一方で日銀の「オーバーシュート型コミットメント」では「マネタリーベースを消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで拡大方針を継続する」(2016年9月21日付日本銀行公表文)とされており、+0.7%程度のインフレ率では量的・質的緩和の出口戦略を議論するには時期尚早といえるだろう。

なお、4月27日の日銀「経済・物価情勢の展望」(「展望レポート」)での「政策委員の大勢見通し」によれば、2017年度の実質GDP成長率見通しの中央値は前年比+1.6%、コアインフレ率見通しの中央値は前年度比+1.6%となっている。これらの見通しは筆者個人の予想にくらべていずれもかなり強気といえる。

上記の個人予想に対するリスクはやや下方と見ておきたい。個人消費については賃金上昇率の加速には常に下方リスクがつきまとう。輸出においては、円高の進行が下方リスクとなる。そのほかに、北朝鮮情勢や米国政治など、日本経済に直接影響を与えうる政治的・地政学的要因にも留意する必要がある。

なお、現状での筆者個人の経済・金融予想を[第1表]に示す。

[第1表]
20170604表1
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