<経済レポート> バブル予防策稼働中:米自動車ローン動向

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自動車ローンの残高や延滞の増加がバブルのリスクを孕んでいるとの見方があるが、自動車ローン市場の規模や、家計所得に対する借入負担全体の比率は極めて低位に抑制されており、バブルやその崩壊のリスクは低いと見たい。むしろ、金融機関が適切に信用条件の厳格化を実施していることが、米経済の循環的な景気減速局面入りを示唆する材料であることに留意したい。

自動車ローンの延滞率は上昇中

米国で消費者ローン、特に自動車ローンと学生ローンのバブル崩壊リスクが高まっているとの見方が、各種報道で市場に広がっている。実際、NY連銀が四半期毎に公表している「家計負債信用報告(2017年5月)」によれば、2017年1-3月期時点の自動車ローンの延滞率(90日以上)は3.82%と、2013年1-3月期以来の高水準に上昇した。また学生ローンの延滞率は10.98%と、2012年7-9月期以来現在まで10%を超える高水準にある([第1図])。また、2010年以降消費者ローン残高は早いペースで増加している。住宅ローン残高が金融危機以降減少を続けて、いまだ金融危機直前の2007年時点の残高に回帰していないのに対し、消費者ローンは2017年1-3月期時点で2007年に比べ約+44%増加している([第2図])。

2008年の金融危機は、急増していたサブプライム住宅ローンの延滞がその引き金の一つとなった。結果住宅価格が下落し住宅純資産額(住宅価格‐住宅ローン残高)は急減した。金融危機後に金融機関はサブプライム住宅ローンほか住宅ローンの審査を厳格化した。結果住宅ローン残高は2015年頃までほぼ一貫して減少傾向をたどった。現在では、住宅価格回復と住宅ローン残高減少で住宅純資産額は回復している。2017年1-3月期には持家純資産額は約13.1兆ドル、持家純資産の持家価格に対する比率は58.3%と、金融危機前のピーク水準に回復している。今後住宅ローンも緩やかな増加に転じると見る。

一方、自動車ローンや学生ローンなどの消費者ローンは金融危機後も上記の制約がなく、住宅ローンに代わり金融機関の主要なローン商品として増加したと考えられる。新車販売台数は2015~2016年に年間17百万台台のピークに達した。自動車販売増加の背景には自動車ローンの拡販、特にサブプライム自動車ローンと言われる信用度の低い債務者宛のローン供与の拡大があったといわれている。

[第1図]
20170814図1

[第2図]
20170814図2

自動車ローン市場規模は住宅ローンの10分の1

しかしながら、自動車ローンが新たな金融危機をもたらす大きなリスクを孕んでいるとは考えにくい。以下に見るように、サブプライム住宅ローンに比べて自動車ローンなどの消費者ローン市場規模ははるかに小さく、またすでに金融機関は審査厳格化などの対応策をとっていると見ることができるからである。自動車ローンについては2年半前にそのバブル懸念はないとの見方を当レポートで示していた(2015年2月11日付当レポート参照)。以下では、その後の消費者ローンの状況を点検しつつ、自動車ローンをはじめとする消費者ローンの状況と経済への影響につき見ていく。

自動車ローン・学生ローン・クレジットカード等の消費者ローンの合計残高は2017年1-3月期現在で約3.8兆円。うち自動車ローンが1.1兆円、学生ローンが1.4兆円、クレジットカード等のリボルビングローンが約1.0兆円となっている([第3図])。これは、住宅ローン残高の9.8兆円に比べるとその約3分の1の規模である。うち自動車ローンの残高規模は住宅ローンの約10分の1にすぎない。

住宅ローンと消費者ローンを合わせた家計のローン借入残高の可処分所得に対する比率は、金融危機前の2007年の120%超をピークに低下を続けており、現在では100%を割り込む低水準になっている([第4図])。ローンの返済額の可処分所得に対する比率を表すデット・サービス・レシオも、同じく2007年をピークに現在に至るまで低下を続けている。もっともその内訳は、住宅ローン返済額の減少が大きく寄与しており、消費者ローン返済額についてのデット・サービス・レシオは2013年をボトムに上昇している([第5図])。だが、消費者にとって住宅ローンや消費者ローンを合わせた返済負担率は、金融危機以降確実に軽減が続いていることになる。

[第3図]
20170814図3

[第4図]
20170814図4

[第5図]
20170814図5

金融機関も信用条件を厳格化している

信用度の低いいわゆるサブプライム自動車ローンの規模も、自動車ローン全体の1.1兆ドルのうち2130億ドル程度とされている(7月7日付CNBC報道)。これは金融危機前のサブプライム住宅ローンは(住宅ローン残高約10兆円の15%程度の約1.5兆ドルと推測される)の約7分の1の規模である。また、自動車ローン証券化商品の残高は1923億ドル程度(4月27日付Bloomberg社報道)とされており、住宅ローン証券化商品(住宅ローン残高の約半分以上が住宅公社またはABS発行体により証券化されている)に比べきわめて小さい。仮に自動車ローン延滞が証券化商品の価格下落を通じて金融機関や投資家に損失を与えたとしても、その影響は限定的といえるだろう。

金融機関側の対処も適切に行われている。FRBのシニアローンオフィサー・サーベイによる、自動車ローンとクレジットカードローンの信用条件厳格化DIの推移が[第6図]である。これによれば、金融機関は自動車ローンとクレジットカードローンの審査基準を昨年後半から厳格化している傾向が明らかである。自動車ローンの延滞率上昇に伴い、金融機関側も審査厳格化で不良債権増加を抑制する対応を実施していることがわかる。また、ローンの需要自体も減少傾向にある([第7図])。自動車についていえば、昨年の年間17百万台という販売台数は経験側的にはほぼ販売飽和状態に近く、今後販売台数は減速すると当レポートでは見ていた。今年に入ってからの新車販売台数の減少と、本サーベイによる需要減少はこの見方と整合している。

家計バランスシート全体も健全である。2017年1-3月期現在で、家計負債の対GDP比率は79.5%と、金融危機前の99%台をピークに現在まで一貫して低下傾向にある([第8図])。家計全体で見れば現在の借入残高は過大ではないといえる。所得に対する返済額も歴史的には低水準にあることも上記で見た通りである。

[第6図]
20170814図6

[第7図]
20170814図7

[第8図]
20170814図8

バブルの懸念なくソフトランディング可能

以上から、自動車ローンを含む消費者ローン市場は決してバブル状態にあるとは言えず、これが崩壊して金融システムに悪影響を与える可能性は低いと見ておきたい。一時急速に拡大した自動車ローンが適度なペースの増加に調整されつつあることは、金融危機の反省が金融機関においても生かされていることの反映であろう。

むしろ、自動車販売の減速や信用条件の厳格化は、中期的な信用サイクルの観点から、今後米経済が循環的な減速に向かうことを示唆する材料であることに留意したい。昨年まで個人消費拡大のけん引役だった自動車販売は、今後は個人消費拡大の足かせ要因になりうる。バブル時代であればかかる環境下ではサブプライム自動車ローン拡販が消費を強引に押し上げるところ、今回は既に適度な歯止めがかかっている。自動車ローンのみならず米経済全体もほぼ需給均衡状態にあり、ここから緩やかに成長が減速するというのが当レポートの見方である。バブル崩壊に至る前に適度な成長減速により経済がソフトランディングすることは、経済の急悪化を回避するためにも望ましいことである。また、その為には金融政策においても今の段階から漸進的な金融緩和解除を継続してバブル発生を未然に防ぐのが適切といえよう。

上記の見方に対するリスクシナリオは、学生ローンも含めた消費者ローン延滞が予想に反して金融システムに波及するシナリオである。もう一つは、FRBの金融緩和解除にかかわらず経済が過熱してその反動によるバブル崩壊が起きるシナリオである。現在NYダウは22000ドル台の史上最高値を更新たが、水準的には高値警戒感を持ってしかるべきレベルである。S&P500の株価収益率は21倍を超え、90年代後半のITバブル期の水準に近づいている。

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