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<経済レポート> 上昇環境不変:米賃金とインフレ率

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7月FOMC議事要旨によれば、今後のインフレ見通しについてハト派とタカ派の意見が分かれた模様だ。失業率低下にも拘わらず上昇しない賃金上昇率の理由についても多くの見解が出された。労働生産性の短期的上昇や雇用ミスマッチ状態における雇用確保への過程で賃金上昇ペースは今後加速し、インフレ率も2%に向け上昇するとの当レポートの見方は維持する。しかしながら、FOMCの追加利上げペースについては、議事要旨や市場期待などの状況証拠から、従前予想よりペースダウンのリスクが高まっていると言わざるを得ない。

7月FOMC議事要旨:FF金利誘導目標据置はスムーズに決定

16日に公表された7月25‐26日のFRB連邦公開市場委員会(FOMC)定例会合の議事要旨によれば、同会合でのFF金利誘導目標レンジの据置はスムーズに合意された模様だ。ただし、参加者による経済見通しに関する審議では、3つの論点すなわち「インフレ率」「賃金上昇率」「株式市場のバリュエーション」が議論の対象となった。また参加者による金融政策の審議では「金融政策正常化ペースとインフレ見通し」「FRBのバランスシート縮小行程」が議論となった。本レポートでは、これらの論点を概観し、その上で各論点につき点検をしていく。

7月議事要旨では「最近の軟化したインフレ率」につき、多くの(many)参加者は「最近のインフレ率低下はおそらく固有の(idiosyncratic)要因を反映したものだろう」と述べた。さらに、多くの参加者は「インフレ率が今後2、3年の間に上昇し、中期的には委員会の2%目標で安定する」と示唆した。しかしながら、同様に「多くの」参加者が「インフレ率が現状予想よりも長期にわたり2%を下回り続ける可能性」を見ていた。また数人の(several)参加者はインフレ見通しのリスクが下方に傾く可能性を示唆した。

賃金上昇率の停滞について、多数の(a number of)参加者は「金融政策に使用される多くの分析は、期待インフレ率一定のもとで物価と賃金への上方圧力が、財・サービスの総需要と雇用が長期持続的水準を上回って上昇するに伴い上昇するという枠組みに依存している」と述べた。何人か(a few)参加者は「この枠組みはインフレ予想に特段有用ではない」と述べたが、ほとんどの(most)参加者は「この枠組みは依然妥当である」と考えた。また参加者は、低インフレ率と低失業率が共存している理由について議論した。この理由として、「資源圧力に対する物価の反応度低下」「自然失業率の低下」「労働市場余剰が失業率以外の指標でよりよく計測できる可能性」「労働市場のタイト化に対する賃金上昇とインフレの反応のラグ」「グローバルな技術革新等による価格決定力への制約」などが含まれた。2,3名の参加者は資源利用率に対するインフレ率の反応が、産出と雇用が明かに完全雇用を超えてくればより強まるだろうと述べた。一方他の参加者はその非線形な応答の仮設は実証的な支持があまりないと述べた。

インフレ見通しについてはFOMC内の見方が分かれた

金融市場のバリュエーションにつき、2~3人の参加者は「好調なマクロ経済要因が現在の株価バリュエーションの背景であり、株価上昇は投資家のレバレッジ利用によるものには見えないことから、株価上昇は金融安定に明かなリスクをもたらしているとは言えない」と述べた。一方で参加者は「信用条件緩和や安定的でない資金調達への依存など、金融機関の行動を監視する必要」を議論した。

金融政策に関する議論では、ほとんどの参加者が「中期的にはインフレ率は委員会の2%目標水準に安定化する」とみていた。しかし、幾人かの(some)参加者は「最近のインフレ率低下は資源利用率がタイト化したのちにも示現しており、インフレ率見通しの不確実性が高まっているとの懸念を表明」した。彼らは「現在の環境下では、現在の低インフレ率の持続の可能性が低いという追加情報が入手されるまで、委員会はFF金利誘導目標の追加引き上げ時期の決定に忍耐強くいるべき」と述べた。これと対照的に、幾人かの他の参加者は「労働市場が既に完全雇用に達していてさらにタイト化するリスク、もしくは金融条件が2015年12月の金融政策正常化以降緩和されていることによるリスクをより懸念」した。彼らは金融緩和政策解除の遅れが委員会のインフレ目標からのオーバーシュートをもたらし、その解消にコストがかかること、もしくは緩和解除の遅れが金融安定リスクの高まりや回復困難な不均衡をもたらすことを警戒した。

FRBのバランスシート縮小の適切な時期につき、参加者は総じて、バランンスシート縮小計画の実施は「比較的早期に」開始するのが適切だとした。数人の(several)参加者は今回の7月会合で縮小計画実施時期を公表する準備があるとしたが、ほとんどの参加者は、経済見通しと金融市場に潜在的に影響する動向についての追加的情報を蓄積するため今後の会合まで決定を遅らせることを選好した。

労働生産性は短期的には上昇している

以上の7月FOMC議事要旨からは、インフレ見通しの下方リスクをみている参加者が相応の人数に達していたこと、また今後の利上げのペースにつきいずれも「幾人か」の参加者がハト派・タカ派的観点から対照的な考えを述べていたことがわかる。また、失業率低下にも拘わらず賃金が上昇しない理由についても様々な見解が述べられたことがわかる。以下ではこれらの論点につき点検を試みる。

まず、現在の賃金と失業率の関係を表すシンプルな賃金版フィリップス曲線の形状を確認する([第1図])。これによれば、時間当たり賃金(生産及び非監督雇用者、季節調整済)の前年比伸び率は7月時点で+2.4%と、ここ数四半期で回帰曲線から下方乖離する方向に低下している。失業率と賃金上昇率との逆相関関係は近年妥当しなくなっているようにも見える。しかしながら、同曲線の過去2005年~2007年の動きをみると、失業率が5%を割り込んだ時点で賃金上昇率が急上昇している。今後失業率が更に自然失業率から下方乖離する形で低下すれば、(議事要旨では否定的見解があった模様だが)今後賃金上昇が加速する可能性はあるといえる。

賃金上昇率が低下している要因として、労働生産性上昇率の低下が考えられる。米国の労働生産性上昇率(非農業企業部門)は近年低下傾向をたどっており、2016年には前年比横ばいにまで低下した([第2図])。労働生産性の低下は企業において賃金引き上げの抑制要因となることから、近年の賃金上昇率低下の要因の一つが労働生産性上昇率低下にあることが考えられる。しかしながら、ここ3四半期の間に、労働生産性が底入れして上昇に転じる兆しがみられる。2017年4-6月期の労働生産性は前年比+1.2%と、2016年7-9月期までの3四半期連続マイナスの伸びから、3四半期連続でプラスの伸びに転じている([第3図])。非農業部門雇用者数(民間部門)の伸びが前年比+1.7%程度にまで減速しているのに対し、非農業企業部門の産出は4-6月期現在で前年比+2.7%に加速していることが数字上の労働生産性上昇加速の要因である。労働市場がタイトな中、労働投入量拡大に対する制約の中で生産拡大を加速している企業行動が見て取れる。祖の中で労働生産性が上昇していることは、少なくとも短期的には企業にとり賃金引き上げを加速できる環境にあることを意味する。

[第1図]
20170827図1
[第2図]
20170827図2
[第3図]
20170827図3

自然失業率低下の証跡はない:雇用ミスマッチが賃金抑制要因

次に、自然失業率の低下の可能性について見る。[第4図]は、賃金上昇率の前年比変化がゼロ(賃金上昇ペースが加速も減速もしない)に相当する失業率を自然失業率とみなし、過去データから自然失業率を推計した結果である。これによれば、金融危機前の1995年から2007年までの四半期実績に基づく自然失業率は約5.0%、金融危機以降の2008年~2017年実績に基づくそれは約6.8%と推計される。ただし、近年の実績値は金融危機以前の回帰曲線に再び戻りつつある。金融危機前の米国の自然失業率が5%レベルにあり、これが金融危機を機に一時上昇したものの、近年は再び5%レベルに低下していることを示唆している(なお、米議会予算局が推計する2017年現在の自然失業率は4.8%、FOMC委員経済予測における長期均衡失業率は4.6%である)。しかしながら、自然失業率が金融危機以前の水準よりもさらに低下している証跡はここにはない。当レポートでは、FOMC議事要旨に見られる、自然失業率の低下が賃金上昇率低下の理由はここには見当たらない。

失業率と欠員率の関係を示すUV曲線は、金融危機以降右上方にシフトしており、自然失業率が金融危機以降むしろ上昇している可能性を示唆している([第5図])。一方、2017年現在の状況を見ると、欠員率は2002年以降で最大の水準(7月現在で4.0%)にあるのに対し、失業率は2005年時点とほぼ同じ4%台半ばにある。つまり、同じ失業率でも雇用のミスマッチにより必要な採用が進まないことにより、より多くの欠員が残っている状態である。高スキル職種の人材不足により、かかる職種の新規雇用が進まないことで、本来実現すべき賃金上昇が実現していない状態にあることが推測できる。賃金上昇率の伸び悩みは、雇用ミスマッチにより適正な賃金上昇が実現していないことが背景と考えられる。

もっとも、雇用ミスマッチがこれ以上拡大せず、欠員率上昇がこれ以上加速しなければ、失業率の低下とともにUV曲線は徐々に金融危機以前の状態に回帰していくはずである。もしくは、雇用ミスマッチにより人材不足になっているスキルの人材につき今後さらに賃金引き上げによる新規雇用または雇用確保が行われれば、今後賃金上昇率が上昇することは十分に考えうる。

[第4図]
20170827図4

[第5図]
20170827図5

インフレ率は2%にむけ上昇との予想維持:利上げペース予想には下方リスク

最後に、需給ギャップ及び期待インフレ率と、インフレ率実績との関係をアップデートしておく。米議会予算局(CBO)推計の潜在GDPに基づく需給ギャップと、ミシガン大消費者センチメント調査における12ヶ月の期待インフレ率とを外生変数とし、食品及びエネルギーを除く個人消費支出価格指数(コアPCEデフレーター)によるインフレ率実績を回帰した結果が[第6図][第1表]である。これによれば、同回帰式に基づく現在の推計コアPCEインフレ率は前年比約+1.8%と計算される。これは、6月現在の同実績である同+1.5%より幾分高い位置にある。今後コアPCEインフレ率が推計値に向けて回帰していくとすれば、年末にはインフレ率は+1.8%程度までの上昇が期待できることになる。以上より、現在の米国の低インフレ率はいずれ解消し、FOMC委員の多くの意見の通り、中期的には2%に向けて上昇していくと引き続き見ておく。

しかしながら、FRBの金融政策については、当レポートの従前予想に下方リスクが出てきている。7月FOMC議事要旨によれば、バランスシート縮小計画の実施を「比較的早期に」行うことについてはほぼ委員会内のコンセンサスができているといえるため、次回9月定例会合でバランスシート縮小開始の決定がなされるとの個人予想は維持する。しかしながらFF金利誘導目標引き上げについては、これまで当レポートで予想していた年内あと2回の利上げの可能性は後退したと言わざるを得ない。7月FOMC議事要旨によれば、「多くの」参加者が2%以下のインフレ率の長期化の可能性を見ていた。また、新たなインフレ指標が相応に上昇するまで追加利上げに慎重でいるべきとの意見が複数の参加者から出されていた。7月FOMC会合以降に公表されたインフレ指標は、6月PCEデフレーターが前年比+1.4%と前月比上昇率低下、7月消費者物価指数が同+1.7%と前月比上昇率がわずかに上昇、との結果であり、ハト派にとっては不十分な結果と言わざるを得ない。また、FF金利先物に見られる市場の利上げ期待は、9月定例会合がほぼゼロ、12月定例会合も40%以下に低下している。25日のジャクソンホールにおけるイエレンFRB議長講演でも、かかる市場期待を修正する意図の発言は見られなかった。ついては年内の追加利上げ回数については下方への修正を考慮せざるを得ない。

現在のインフレ率水準と需給ギャップからテイラー・ルールで推計されるFF金利水準が現状でも2%半ばにあること、また景気循環に基づく今後の米経済減速局面入りの可能性を勘案すれば、将来の金融政策ののりしろ確保のために、FF金利誘導目標引き上げは早期に実施することが望ましいとの当レポートの見方は不変である。しかしながら、議事要旨等に見る状況証拠は、次回9月会合ではバランスシート縮小を事実上の公約通りの決定が優先され、追加利上げ決定は見送ることがFOMC内の多数の見方である可能性を示唆していると言わざるを得ない。さらに、9月から10月にかけて到来する、連邦政府予算と連邦債務上限引き上げについて、現状目途がたっていないことも、潜在的にはFOMCの利上げペースの調整の根拠となる可能性もある。

[第6図]
20170827図6

[第1表]
20170827表1



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