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<経済レポート> デフォルト回避もリスクは下方:米政府債務上限引上げ法成立

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米政府債務上限を短期間不適用とする法案の成立で、少なくとも3ヶ月間米政府デフォルトは回避できることとなった。米財政をめぐる課題はここ数年間と同様土壇場で解決しつつあり、米経済の堅調な拡大予想を支持する動向である。しかしながら、政府閉鎖回避のための9月中の予算成立にはまだリスクがあるほか、内政・軍事・外交をめぐる状況はトランプ政権の政策執行能力の低下を示唆している。米経済予想に対するリスクはこれまで上方とみてきたが、今や中立もしくは下方にシフトしつつあると言わざるを得ない。

12月8日までの債務上限不適用が法案成立:デフォルトは回避

8日の米議会で、米政府債務上限の3ヶ月間の不適用とハリケーン・ハーヴェイ被害支援の財政支出を定める法案「2018年歳出継続法及び2017年災害救済要請のための補正歳出法(Continuing Appropriations Act, 2018 and Supplemental Appropriations for Disaster Relief Requirements Act, 2017, H.R.601)」が可決され、同日大統領署名を経て成立した。同法では、①政府債務上限を12月8日まで不適用とし12月9日以降はその時点の債務額を上限として自動継続すること、②12月8日を期限として2018会計年度(2017年10月~2018年9月)において従前から継続している政府機関の歳出を認めること、③ハリケーン被害に対応し連邦緊急対策の災害救済基金74億ドル、コミュニティ開発基金74億ドル、中小企業災害貸付プログラム4.5億ドルの合計152.5億ドル歳出を認めること、が定められた([第1表])。

2018年歳出継続法により、米政府デフォルトと政府閉鎖という米財政の2つの課題のうちの一つ目、デフォルトについては回避されたといえる。すなわち、本法の成立で、成立済の予算法に基づく政府支出及びこれに必要な政府債務の増加は可能になり、米政府が既に負っている債務は履行できることになった。米国債元本償還や利払いなどの債務不履行のリスクはなくなり、いわゆる政府デフォルトは少なくとも12月までは回避される。一方で、10月以降の新たな政府支出執行のためには、現在議会で審議中の12の歳出法案の成立が必要であり、これが成立しない場合政府閉鎖に至る可能性は残っている。さらに、債務上限引上げ期間が3ヶ月と短期にとどまったことで、12月には債務上限問題が再燃する可能性がある。

なお、8月下旬に米南部を襲ったハリケーン・ハーヴェイにつづき、大型ハリケーン・イルマが現在フロリダ州に接近しており、ハリケーン被害はさらに拡大する可能性がある。米国南部の経済活動の一時停滞と復興需要により、米経済成長は7-9月期には押し下げ、10-12月期には反動による押し上げ方向のブレが発生しそうだ。

[第1表]
20170910表1


トランプ大統領は民主党案を支持した

米政府債務上限のこれまでの経緯を振り返っておく。本法成立前の米政府債務上限は、2015年10月30日に成立した2015年超党派予算法 Bipartisan Budget Act of 2015に基づき、3月16日以降約18.9兆ドルに凍結されていた([第2表])。2015年超党派予算法では、政府債務上限を2017年3月15日まで不適用とし、その後は3月16日時点の債務残高を自動的に上限とするものであった。3月16日に債務上限不適用期限が到来時、米財務省は「緊急措置extraordinary measure」を発動して政府債務の増加を回避してきた。緊急措置には、州・地方政府債発行停止、連邦職員年金基金投資の停止、公務員・郵便職員退職金基金への投資停止、などが含まれる。これらは過去の政府債務の上限到達時にも実施されたものである。ムニューシン財務長官は3月16日にこれらの緊急措置発動を公表するとともに、米議会下院議長に対して債務上限の早期引き上げを要請する書簡を送付していた。

さらにムニューシン財務長官は7月28日、再び議会下院議長に書簡を送付、9月29日までに債務上限を引き上げるよう再度要請した。米調査機関Bipartisan Policy Center(BPC)によれば、10月2日に約810億ドルの軍人退職金基金宛支払いが発生し、ここで資金ショートが発生するとされていた(BPC“Debt Limit Analysis”, August 2017)。さらに、8月下旬に米南部を襲ったハリケーン・ハーヴェイの被害に鑑み、米政府は議会に対し、復興予算の手当とこれに合わせた債務上限の引き上げを要請していた。

2018年歳出継続法による債務上限引き上げをめぐる政府・議会の交渉において、共和党ライアン下院議長やマコネル上院院内総務、ムニューシン長官は、18ヶ月の債務上限不適用を定める案を提示していたとされる。18ヶ月の債務上限引き上げであれば2018会計年度一杯、及び2018年11月の次回中間選挙まで債務上限問題を回避することが可能になる。一方で、共和党財政緊縮派や民主党幹部はこれに対し3ヶ月の短期引き上げ案を提示していた。トランプ大統領は、6日のライアン議長、マコネル院内総務、ムニューシン長官、そして民主党シューマー上院院内総務、ペロシ下院院内総務を交えた会談で、民主党及び共和党保守派の支持する短期間の上限引き上げ案を支持したとされる(各種報道による)。

政府閉鎖回避への課題

米財政が抱えるもう一つの課題である政府閉鎖の回避のためには、10月1日の2018会計年度開始までに個別の予算法案の成立が必要になる。2018年歳出継続法成立で、従前より継続的な政府支出については歳出が可能になり、政府デフォルトは免れたと考えられる。しかし、従前の法律で成立していない新たな予算の執行のためには、2018会計年度に係る12の予算法案成立が必要である。すでに下院は4つの法案を可決しており、今週残りの8つの法案を採決する予定である(各種報道による)。裁量支出上限と歳出自動削減の緩和が議会で合意されれば、米財政をめぐる短期的課題はほぼ解決するといっていいだろう。

しかし、そこにはなお複数の課題が残っている。まず、2018会計年度予算成立に当たっては、2015年超党派予算法(Bipartisan Budget Act of 2015)で定められた裁量支出上限の引き上げ如何が焦点となる。同超党派予算法では、米連邦予算の裁量支出上限が2017会計年度予算までに限定して引き上げられていた。2018会計年度以降は2011年予算管理法(Budget Control Act of 2011)に基づく歳出自動削減が再開されることになる。2011年予算管理法によれば、2018会計年度の裁量支出上限は(自動削減分を含め)1兆700億ドルである。これに対しトランプ大統領は5月の大統領予算教書において、この裁量支出上限と歳出自動削減を撤廃し、1兆1670億ドルの裁量支出(うち国防歳出は340億ドル増額となる6680億ドル)とすることなどを要請している(米議会予算局「2018年大統領予算教書の分析」2017年7月)。現在米議会下院で可決された法案、また議会で交渉中の予算案は、一部これらの上限撤廃を含めたものになっている模様だ。総じて大統領予算教書は、国防費を増額する一方で教育や福祉に関する歳出を削減する内容となっている。この配分が議会における予算交渉の大きな焦点となる。

次に、予算成立に当たっては、トランプ大統領の掲げる税制改革の法案への反映是非が焦点となる。トランプ大統領は4月26日「経済成長と米国雇用のための2017年税制改革」において、所得税簡素化や法人税引下げなどの税制改革を政策として掲げている([第3表]、及び4月30日付当レポート参照)。2018会計年度予算案においてこれらの税制改革がどこまで織り込まれるかは不透明である。税制改革を見送る法案が議会で可決された場合、短期的には政府財政の安定化要因にはなるが、大統領がこれに対し拒否権を発動した場合は政府閉鎖の新たなリスク要因となりうる。もっとも経験則的には、政府閉鎖の可能性もしくは政府閉鎖となった場合の米経済への影響は大きくはない。2013年10月1日に始まった政府閉鎖は16日後の2014年歳出継続法案(Continuing Appropriations Act, 2014)成立により2週間強で終了した(2013年10月20日付当レポート参照)。直近の2017会計年度は年度初に予算が成立しておらず、5月1日まで暫定予算でつないだのちに、漸く5月に年度予算が成立した経緯にある。今回も、仮に予算法案が完全成立しなかった場合でも、暫定予算による政府閉鎖回避の道が探られることになろう。

トランプ政権の政策執行能力は下方リスク

今回の債務上限引上げ法の成立は、米経済の堅調な拡大に対する下方リスクの一つが少なくとも短期的に解消されたことを意味する。現状当レポートでは2017年の米通年成長率を約2%と見ている。今回の債務上限引き上げはこれを支持する材料といえる。しかしながら、米経済見通しへのリスクはこれまでの上方リスクから下方リスクにシフトしつつあると言わざるを得ない。まず今回の債務上限引上げ期間が3ヶ月と短期にとどまったことや、2018会計年度予算の成立如何は引続き短期的下方リスク要因であり続ける。

さらに、トランプ政権の政策執行能力にも下方リスクが拡大している。トランプ政権下では主要閣僚の更迭が相次ぎ、7月にはプリーバス大統領首席補佐官(後任はケリー国土安全保障長官)、8月18日には選挙戦での最大の側近だったバノン主席戦略官が更迭された。FRB関係では、時期FRB議長の呼び声の高かったコーン国家経済会議(NEC)委員長を次期FRB議長候補としないとのトランプ大統領の意向が報道されている。またフィッシャー現FRB副議長は6日、10月13日前後に辞任するとの意向を公表した。トランプ大統領の掲げた政策では、5月にオバマケア代替法案が下院を通過したものの上院では審議が店晒し状態である。こうした状況から、トランプ政権の財政・経済政策が成長見通しに対する上方リスクになるとの年初の見方は大きく後退させざるを得ない。

軍事外交面では、北朝鮮の度重なるミサイル発射に続き、2日には6回目の核実験が実施されるなど、米朝間の軍事的緊張感はこれまでになく高まっている。地政学リスクも含めた総合的な観点からは、今や米経済見通しに対するリスクはほぼバランス、またはやや下方にシフトしつつあると言わざるを得ない。


[第2表]
20170910表2


[第3表]
20170910表3

(訂正)2018年1月21日、「2018年歳出継続法及び2017年災害救済要請のための補正歳出法」による2018会計年度歳出の期限を12月8日とする記述を追加しました。
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