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<経済レポート> 不均衡の調整:米大統領一般教書演説とFOMC

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トランプ米大統領の一般教書演説、1月FOMC定例会合という年初のイベントをこなした米金融市場では、株価の反落と長期金利上昇が顕著になっている。こうした動きは昨年までに蓄積した市場の不均衡のからの調整といえる。一方で大型減税により2018年の米経済拡大ペースは一時的に加速する見込みだ。FOMCは年内3回またはそれ以上の利上げ実施を必要とする環境ができつつある。

一般教書演説では1.5兆ドルのインフラ投資を表明

1月30日、トランプ米大統領は1年前の就任演説以来の一般教書演説を米議会で行った。同演説においてトランプ氏は、まず就任後の実績として、雇用相創出、株価上昇、減税法案の成立、及び自動車メーカーの国内工場拡大、等を挙げた。次に今後の政策として「公平で互恵的な通商関係交渉」「1.5兆ドルのインフラ投資」「移民法改革パッケージ」「テロとの戦い」「イラン核交渉の見直し」「北朝鮮への核兵器使用の可能性」などを挙げた。このうちで、具体的な数値目標を掲げた経済・財政政策は「インフラ投資」のみである。一方で特に移民法改革については多くの時間を割いて演説を行った([第1表])。

演説の内容は、1年前のトランプ氏の就任演説や従前の大統領の同演説に比べ具体的政策に欠けるものと言わざるを得ない。「最低1.5兆ドルのインフラ投資」については、従前トランプ氏が掲げていた1兆ドルから増額された金額を示した他、州・地方政府との連携、道路・橋・高速道路・鉄道・水路の建設を呼びかけた。ただし米国の公共インフラの老朽化は従前より課題とされてきたもので、トランプ氏の政策にそれほどの新味はない。また金額も総額1.5兆ドルが示されたのみで、内訳などの詳細は示されなかった。

1.5兆ドルのインフラ投資は、仮に10年間で実施されるとして1年あたり0.15兆ドル、年間名目GDPの約0.8%に相当する。しかしながら、建設に要する期間等を勘案すれば、仮に同法が成立したとしても当初の短期的な景気押し上げ効果は限定的と見ざるを得ない。また1.5兆ドルのインフラ投資は同額の財政赤字拡大を意味する。米議会予算局(CBO)の財政・経済見通し(2017年6月時点)によれば、税制改革法成立前の状況で2019会計年度に名目GDP比-3.3%への財政赤字拡大が予測されている。ここに税制改革による赤字拡大幅-1.4%(CBO試算による税制改革法の2019会計年度の財政赤字影響額)、さらにインフラ投資による赤字拡大-0.7%が加わると、2019会計年度の財政赤字は名目GDP比-5.4%に拡大する計算になる。これは、金融危機後の大型財政出動による赤字拡大を除けば、1983年以来の大きな財政赤字となる。議会共和党が本来目指している財政均衡の考え方からは、かかる大型の財政出動が容易に議会で可決されるとは考えにくい。報道によれば、トランプ大統領はインフラ投資の財源としてガソリン税引き上げを提案しているものの、共和党議員の多くはこれに反対している模様である。

[第1表]
20180206表1

外交面の厳しい姿勢は不変

移民法改革については、トランプ大統領は民主党との妥協も視野に「4つの柱」を掲げてこれを相対的に詳細に述べた。第1の柱は「幼少期に親と不法入国した移民」いわゆるDreamersにつき、教育と勤労条件を満たす善い人格であることを条件に米国市民権を授与するとするものである。この考え方は、いわゆる民主党が主張してきたDACA(Deferred Action for Childhood Arrivals)制度の維持である。トランプ氏は一時DACA制度の廃止を提言していたが、その後民主党への妥協を示している。しかしながら、第2の柱以降は本来のトランプ氏の移民に対する厳しい姿勢を示した内容となっている。第2の柱は「メキシコ国境への壁建設」、第3の柱は「無作為抽出による移民へのビザ発給方法変更(スキルや勤労意欲に基づく発給へ)」、第4の柱は「移民の親族の受け入れへの制約」とされた。

外交面ではイランに対する強硬策の他、北朝鮮との関係についてはほぼこれまでの同氏の政策を踏襲している。通商・対外援助については就任時からの「米国第一」の路線を堅持している。なお、大統領は一般教書演説で通商問題に関し北米自由貿易協定(NAFTA)については直接言及せず「公平で互恵的な通商関係交渉」をおこなうと述べるにとどめた。

総じてトランプ大統領の一般教書演説には大きなサプライズはなかったといえる。今後の新たな経済財政政策としては、1.5兆ドルのインフラ投資の実現可能性が主な注目点である。また地政学リスクについても経済に対する波乱要因であり続けると見る。

FOMCはFF金利据え置きを決定:今年はよりタカ派になろう

FRBの連邦公開市場委員会(FOMC)は、1月30-31日の定例会合でFF金利誘導目標レンジの1.25-1.50%への据置を決定した。本定例会合はイエレンFRB議長にとって任期中の最後の定例会合となった。31日に公表された声明文は、従前の文言と本質的な変化はなかった。当レポートでは年内3回またはそれ以上の利上げが決定されると予想している。次回の利上げは次回3月の定例会合で決定されると見る。

FOMCで年内3回以上の利上げが実施されると見る理由は以下の通りである。まず、過去の当レポートでもみたように、保守的にみても、テイラー・ルール公式(93年版、自然利子率=0.8%)による適正FF金利水準は現状でも2%台半ばにある([第1図])。次に、昨年末に成立した税制改革法により、2018年の米経済は同法成立以前の見通しに比べて成長ペースの加速が見込まれる。また、FRBが参照するインフレ指標である個人消費支出価格指数(PCEデフレーター)の前年比伸び率は、2018年末には+1.8%とほぼFRBが目標とする2%に近い水準にまで上昇すると見込まれる。最後に、FOMC委員の多くが2018年に新たに任命され、その委員は従前に比べてタカ派色が強くなる可能性が高い。つまり、12月時点のFOMC委員予測中央値(年内3回の利上げ)以降外部及び内部の環境は変化している。おそらく2018年のFOMCは12月時点よりもタカ派色が強くなると見たい。昨年12月のFOMC定例会合の議事要旨によれば、複数の委員が「12月の委員予測よりいくぶん速い追加引き締めが適切」との考えを表明している。

イエレン議長の下でのFOMCはハト派色が強く、利上げのペースも極めて慎重なスタンスを継続した。しかしながら、現在のFOMCが抱えるリスクはむしろインフレ率の上昇や労働市場のタイト化に対するビハインド・ザ・カーブのリスクに転換していると見たい。パウエル新FRB議長は金融政策的には中立派とみられるものの、就任後の労働市場とインフレ状況を改めて点検した場合、利上げの遅れのリスクを認識する可能性はある。さらに、中期的な景気循環からは、2019年頃には景気の転換の可能性を見ておく必要がある。その前に相応の利上げを実施することで景気減速時の利下げの余地(金融政策ののりしろ)を確保しておく必要もあるだろう。

[第1図]
20180206図1

不均衡の調整が既に始まっている

米長期金利はしたがって、年内に上昇基調を維持するだろう。当レポートでは、米国債10年物利回りが2018年末に3.5%にまで上昇すると予想している。当面は、2013年末から2014年初につけた3%の高値が一つの目途となろう([第2図])。ここを上抜けると以外に3.5%には早期に達するリスクも見ておきたい。また、同時に米国債イールドカーブのフラットニングが進行している([第3図])。利上げ時期にはイールドカーブのフラットニングが起きるのが通常で、今回の現象も特段景気後退の前兆とみる必要はない。しかしながら、景気の転換がFF金利のピーク近辺で起きるのも経験則である。

1月21日付当レポートで見たように、米経済の需給ギャップは均衡から需要超過の領域に入りつつある。貯蓄率の大幅な低下に見られるように、個人消費は過熱の領域に入っている。株価収益率は(金融危機直後の外れ値を除き)2003年以来の高水準にある。長期金利の均衡水準は現状でも3%台半ばにあるにもかかわらず、FRBの量的緩和以降現在まで相当に低い水準に抑制されている。

こうした不均衡の是正が2018年の大きな米経済のテーマとなるだろう。2日のNYダウは前月比-666ドルの大幅下落となり、1週間の下落幅は1095ドルに達した。長期金利は2日現在で2.85%と、年初来+0.4%を超える上昇となっている。こうした動きは、不均衡の調整が意外に早く顕在化しているリスクを象徴しているといえる。

[第2図]
20180206図2

[第3図]
20180206図3

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