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<経済レポート> 不均衡調整は続く:米株下落と金利上昇

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NYダウはここ2週間で-9%を超える大幅下落、長期金利は2.8%を超える水準に上昇した。株価下落と長期金利上昇はいずれもこれまでの不均衡是正の調整とみることができ、またファンダメンタルズへの大きな影響は見通しにくい。一方でトランプ政権の歳出拡大策により米財政赤字は更に拡大の見込みである。NYの下値目途は22000ドルレベル、長期金利の上値目途は3.5%と見ておくが、これを超える株価下落・金利上昇のリスクシナリオをも想定はしておく必要があろう。

NYダウは2週間で-9%下落した

米株が大幅に下げている。NYダウは1月26日に26616ドルの史上最高値をつけたのち2週間にわたる急反落に転じた。2月9日の終値は24190ドルと2週間で-9.1%の下落となった([第1図])。NYダウ下落は、昨年12月末の米トランプ政権の税制改革法成立、1月20からの米政府閉鎖、1月30日トランプ大統領一般教書演説におけるインフラ投資拡大表明、そして2月にかけての連邦政府予算をめぐる米議会内の交渉、といった米政府財政問題とこれに伴う長期金利の上昇と軌を一にしている。こうした米財政問題をめぐる混乱と財政赤字拡大見通しが長期金利の上昇をもたらし、更に株価下落を促したと見られる。

従前より当レポートで指摘していたように、NYダウはこれまでバリュエーション的にかなり割高な水準にまで買い進まれていた。S&P500の株価収益率は、金融危機直後の外れ値を除いて、1990年代のITバブル期以来の水準に上昇していた。NYダウはいつでも調整の反落の可能性のある状態にあったわけで、今回の米株急落はいわば想定の範囲内である。また急落の契機が米政府財政問題による長期金利上昇であったことも合理的な動きである。今回の株価下落は、想定外の外部ショックによるものではなく、株価水準そのものが孕んでいた不均衡の調整によるものといえる。

チャートポイント的には、NYダウの下値の目途は、2016年11月トランプ大統領当選直前の安値17888ドルから、今年1月26日の最高値26616ドルまでの半値押しに当たる、22252ドルレベルである。9日の終値から22252ドルまでは約-2000ドル弱である。2月以降9日までにNYダウは前日比-1000ドルを超える下落を2度も記録している。その意味では、この下値は意外に早期に実現する可能性がある。といっても、22252ドルは昨年9月の水準であり十分に高い株価水準といえる。また22252ドルまでの株価下落は1月26日の史上最高値対比では約-16.3%の価格減価であり、トランプ大統領当選後1月までの+48.7%の株価上昇の約3分の1の減価にすぎない。

[第1図]
20180211図1

長期金利は3.5%への上昇予想を維持する

米国債10年物利回りは9日時点で2.85%と、昨年末の2.4%レベルから+0.45%ポイント上昇した(上昇率は約+18%)。米長期金利上昇の背景は3点ある。まず、税制改革法成立やトランプ大統領の更なるインフラ投資表明、米財政をめぐる米議会の混乱。次に、FOMCが今後も断続的な利上げを継続するとの見通し、そして米インフレ率の上昇見通しである。財政要因はトランプダウ棟梁の政策が徐々に功を奏し始めたという政治的背景によるものである。一方、FOMCの利上げ見通しとインフレ率上昇見通しは、従前より当レポートで指摘してきた通り、米経済の需給の引き締まりによるもので、ファンダメンタルズを反映した想定内の動きといえる。チャート上の上値の目途は2013年末につけた3%レベルである。

ここで、米国債10年物利回りの要因分解をアップデートする。今回は、外生変数として「潜在成長率」「FF金利誘導目標」「長期期待インフレ率」の3つを用いる(従前は「潜在成長率」ではなく「実質GDP成長率実績」を用いていた―2017年7月2日付当レポート参照)。潜在成長率は米議会予算局(CBO)推計の潜在GDP(2018年第1四半期現在で+1.6%、[第2図])、長期期待インフレ率はフィラデルフィア連銀集計のSurvey of Professional Forecasters における長期インフレ予想を用いる(2018年1月現在で2.25%、[第3図])。1992年から2017年の四半期データに基づく回帰分析によれば、いずれの外生変数も統計的に有意であり、2018年第1四半期の長期金利推計値は約3.0%となる。これは、長期金利が現状の2.85%からさらに上昇すること、また2013年末の直近ピークである3%近辺が現在の均衡水準であることを示唆している。今後FF金利誘導目標レンジが年末に2.00-2.25%にまで引き上げられ、期待インフレ率が2.5%レベルに上昇すれば、長期金利が年末に3.5%にまで上昇する計算になる([第1表]、[第4図])。これは、1月6日付当レポートの筆者個人予想の背景でもある。

潜在成長率の低下や期待インフレ率の低下が長期金利をこれまで低位に抑制しており、更にFRBの量的緩和継続が昨年前半までの長期金利を推計値以上に押し下げてきた。しかしながら、かかる長期金利抑制要因は徐々に剥落している。CBO推計による潜在成長率は現状の+1.6%から2018年第4四半期には+1.7%に上昇するとされている。長期期待インフレ率は現状2.25%と上昇しつつも比較的低位にあるが、今後需給の引き締まりによりこれも上昇する可能性が高いとみる。

[第2図]
20180211図2

[第3図]
20180211図3

[第1表]
20180211表1

[第4図]
20180211図4

株価下落と金利上昇で個人消費は減速へ:潜在成長率は維持できる

株価下落と長期金利上昇が米経済のファンダメンタルズに与える影響はさほど重要ではない。1992年から2017年までの四半期データによる回帰分析によれば、株価と金利に対する個人消費の弾性値は0.01程度と相対的に限定的である([第2表])。NYダウが22000ドルに下落、30年物住宅ローン金利が5%に上昇(米国債10年物利回り3.5%にほぼ対応)しても、実質個人消費は+2.2%レベルの拡大ペースを維持できる計算になる(1月6日付当レポート参照)。これは2017年第4四半期の同+3.8%からは大幅な減速であるが、潜在成長率を維持するには十分な拡大ペースである。

現在の個人消費が想定以上に加速している背景には、株価上昇による一時的売却益があると憶測できる。1月21日付当レポートでみたように、個人の貯蓄率は金融危機直前の水準にまで低下している。株価上昇の機をとらえた売却益による消費が一時的に消費拡大要因となっている可能性がある。また中古住宅販売においては昨年11月に「初回購入者は低迷、現金での購入や高額の頭金による購入が増加の太宗を占めた」状況が全米不動産協協会(NAR)より報告されている。現金購入による2戸目以上の中古住宅販売の急増は、株式売却益による資産流動化による購入である可能性が高い(2017年12月24日付<経済指標コメント>参照)。

株価下落は2017年末にかけての巡航速度以上の個人消費の伸びを巡航速度に回帰させることになるだろう。しかし22000ドル台半ばまでの株価下落であれば、米経済は巡航速度以上の成長維持可能である。さらに税制改革に伴う減税効果で2018年米経済が+2%台後半の成長を実現するとの個人予想は維持する。長期金利や株価が、3.5%、22000ドルという目途を超えて上昇・下落するケースを下方リスクシナリオとして想定しておく。

[第2表]
20180211表2

米議会は裁量支出上限と債務上限を再び引き上げた

米議会は9日「2018年超党派予算法(Bipartisan Budget Act of 2018, H.R.1892)」を可決し、同法は同日大統領署名を経て成立した。同法のポイントは大きく4つある。①ハリケーン災害等に伴う緊急追加歳出許容、②連邦政府の継続的歳出の2018年3月23日までの継続による政府閉鎖回避(1月20日に始まった政府閉鎖は、22日に成立した2月8日までの短期つなぎ予算の成立でいったん解消していた)、③2011年予算管理法で定められた裁量支出の上限を2019会計年度まで引き上げ、④政府債務上限を2019年3月1日まで不適用、である([第3表])。なお、この超党派予算法の交渉にあたっては、民主党が「幼少期に親と不法入国した移民」に米国市民権を授与するDACA(Deferred Action for Childhood Arrivals)制度の維持を主張したとされる。トランプ大統領は1月30日の一般教書演説で、他の移民政策の厳格化を条件にDACAの維持を許容することを表明している。

同法の成立により政府閉鎖や米国債デフォルトのリスクは一旦回避された。しかし、裁量的歳出上限の引き上げは2015年に続くもので、米財政赤字の拡大要因となる。CBO推計によれば、同法は2018会計年度の財政赤字拡大幅は約160億ドル(名目GDPの約0.08%)、2019会計年度のそれは92億ドル(同0.04%)であり、同法による直接の財政赤字拡大への影響は大きくはない。しかしながらすでに昨年12月成立の減税法により2018会計年度の財政赤字はGDP比-0.7%拡大見込みである。今回の歳出拡大により2018会計年度の財政赤字はGDP比-4%に迫り、その場合金融危機後の大型財政出動を除けば1990年代の双子の赤字時代の水準になる。

需給の引き締まり、インフレ率の上昇、FRBの利上げ継続、そして財政赤字拡大はいずれも長期金利が年末に3.5%に向けて上昇するとの当レポート予想に整合する動向である。ここまでであれば想定の範囲内といえるものの、市場を通じた思惑の波及により金利上昇ペースや株価下落ペースが想定以上に加速するリスクには留意しておくべきであろう。

[第3表]
20180211表3


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