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<経済レポート> 新重商主義の顕在化:米大統領の鉄鋼・アルミ輸入制限

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トランプ米大統領は、鉄鋼製品・アルミニウムについての輸入制限措置を決定した。これは保護貿易主義をいわば標榜する同氏の政策に則った措置といえる。輸入制限措置は現実には国内産業の育成に貢献するとは限らずむしろ米製品の競争力低下を招くリスクがある。もっとも、輸入制限の例外適用により、これを政治的交渉のカードとして大統領が使用するにとどめれば、経済的な悪影響が抑制されるシナリオは想定可能である。

鉄鋼製品25%、アルミニウム10%の関税による輸入制限を決定

トランプ米大統領は8日、大統領宣言(Presidential Proclamation)を発出し、米通商拡大法232条に基づく商務省報告書に基づき、鉄鋼製品とアルミニウムの輸入が米国の国家安全保障を損なう脅威となっていることを理由に、鉄鋼に25%、アルミニウムに10%の輸入関税を課す輸入制限措置の実施を表明した。輸入関税は3月23日より実施される。またカナダとメキシコは同関税の対象外とされ、安全保障関係にある国とは交渉の余地を残した。

米通商拡大法232条は、商務省に対し国家安全保障への脅威となりうる輸入に関する調査と大統領への報告の権限を、また大統領に対し報告受領後90日以内にその結論を判断し輸入の調整のための行動をとる権限を付与している。例えば鉄鋼につき、1月11日に大統領に提出された商務省報告書「鉄鋼輸入の国家安全保障への効果(The Effect of Imports of Steel in the National Security)」は、「現在の鉄鋼製品輸入とグローバルな過剰生産能力が米国内経済を弱体化させている」、また鉄鋼製品輸入拡大が「国内鉄鋼生産設備の閉鎖の継続的脅威となり、国家緊急事態における安全保障のための生産能力を縮小させている」として、鉄鋼の輸入拡大が「商拡大法232条に定義された国家安全保障を損なう脅威となっている」と結論づけている。同報告書では、輸入調整のための関税引き上げなどの複数の選択肢を提言している。

同報告書を受けてトランプ大統領は、上記の通りの鉄鋼製品とアルミニウムに対する輸入関税を決定した。トランプ大統領は既に1日、鉄鋼・アルミニウム業界との懇談会の席で、鉄鋼に25%、アルミニウムに10%の輸入関税を課することを表明済であった。ただ8日の大統領宣言では「安全保障関係にある国は、輸入の脅威による国家安全保障棄損への代替的な対応策をもって協議することを歓迎する」として、日本などの同盟国については米国安全保障を他の手段で確保する案の提示を条件に交渉の余地を残した。また、カナダ、メキシコについては「我々の共有する(安全保障やグローバル過剰生産能力への対応に関する)コミットメント、産業基盤の類似性、これらの国家間の健全な経済的統合」党を背景に輸入制限措置の対象外とすることを表明した。

鉄鋼輸入上位はカナダ、ブラジル:中国のシェアは低い

以下では、同輸入制限措置の国別の影響を見る。まず、2017年の米国による鉄鋼製品輸入相手国の上位は、①カナダ、②ブラジル、③韓国、④メキシコ、⑤ロシアとなっており、中国は11位である(同報告書による、[第1図])。また2011年から2017年にかけての輸入量変化はカナダ+5%、ブラジル+66%、韓国+42%、メキシコ+24%、ロシア+146%である。中国からの輸入は-31%減少している。またアルミニウム輸入の上位相手国は①カナダ、②ロシア、③アラブ首長国連邦、④中国、⑤バーレーン、となっている([第2図])。ここでは2016年から2017年にかけての輸入数量増加率がカナダ+9.0%、ロシア-0.4%、アラブ首長国連邦+30.8%、中国+24.8%、バーレーン+39.0%となっている。

トランプ大統領は選挙戦時より、国内鉄鋼業等の保護のために保護貿易主義政策をとることを明言していた。今回の輸入制限措置はその政策に則ったものといえる。特に中国の過剰生産能力を祖の背景に挙げていることは、同氏の対中国通商問題に対する厳しい姿勢と一致している。商務省報告書でも「グローバルな過剰生産能力」において特に中国の生産能力拡大を指摘している。もっとも米国による中国からの鉄鋼製品輸入シェアは小さくかつ減少していることから、ことさらに中国の鉄鋼製品を批判の対象にする理由は計数上見当たらない。中国に対するスタンスは計数よりも大統領個人の政治的思惑が先行している感が強い。

一方で、北米自由貿易協定(NAFTA)の加盟国であるカナダ、メキシコについては輸入制限の対象外とする配慮を見せた。NAFTAについては米国がここからの離脱も辞さないとの強硬な姿勢で輸入割当等の見直しを交渉中であるが、グローバルな一律関税の対象外とすることで3国間の交渉の継続を示唆した形である。

保護主義による弊害

輸入制限措置の効果については次のように考えられる。米商務省報告書は、鉄鋼とアルミニウムについて、米国内での需要増加以上に輸入が増加していることにより、国内同産業の設備稼働率が低下していることを指摘している。例えば鉄鋼製品への輸入制限措置発動により、国内産業の設備稼働率が現状の72.3%から80%に上昇した場合、米国内鉄鋼生産は約10.6%増加すると試算されている。こうした試算は、輸入制限により国内製品への需要を拡大することで、国内産業の回復と雇用拡大を意図するという、米国にとってはある意味合理的な措置ともいえる。

しかし現実には、輸入制限措置が米国産業を支援するとは限らない、輸入鉄鋼製品を使用する米国内製造業にとっては、代替的な国内製品の品質と数量が確保できるまでの間は、従前の輸入製品を使用する可能性が高い。これは国内製品の価格上昇をもたらし、米国製品の競争力低下につながるリスクがある。自動車・航空機・建設機械製造業は鉄鋼やアルミニウムの輸入制限措置によりコスト上昇というマイナスの影響を受ける。米大手オートバイ製造会社は5日に「(大統領の提案する)輸入関税措置は鉄鋼とアルミニウムを用いた製品のコストを上昇させる」との声明を公表した(報道による)。

公正な貿易の観点からも今回の輸入制限措置は世界経済への悪影響要因となりうる。諸外国も同様の認識である。日本の外務省は9日、米国が「輸入制限措置を決定したことは遺憾です」との声明を公表、欧州委員会(EC)のユンケル委員長も1日「今回の決定は、安全保障からの正当化ではなく米国国内産業の保護のための露骨な介入であり極めて遺憾」と述べた。報道によれば、EUと日本は、それぞれの地域と国を同輸入制限の対象外とすることを米国に申し入れる意向である。

[第1図]
20180311b図1

[第2図]
20180311b図2

保護主義は経済産業にマイナス:選択適用で悪影響抑制のシナリオもある

保護貿易主義は、トランプ大統領就任時に当レポートで指摘した「新重商主義」の一環をなすものであり、今回の輸入制限措置は保護貿易主義の最大の目玉の実現ということになる。ただ、輸入制限措置がトランプ大統領の意図する国内産業の育成に寄与する可能性は低いと見たい。まず、鉄鋼製品・アルミニウム産業に特化した保護主義は、他の製造業の原材料調達の最適化の機会を奪うことになる。結果、鉄鋼製品・アルミニウムを部品・原材料とする自動車、建設機械、航空機などの米国の主要製造業はコスト高による競争力低下の可能性が高い。また国際貿易の観点からも、米国の輸入制限措置は製品等の公正な競争を阻害して国際貿易の収縮を招く可能性がある。

しかしながら、同輸入制限措置の悪影響を最小限にとどめるシナリオはまだある。トランプ大統領はカナダとメキシコを輸入制限の対象から除外した。これは、NAFTAに基づき両国から部品や原材料を輸入する米国の製造業にとっては大きな緩和措置である。また日本は日米安全保障条約を通じて米国と同盟関係にある。したがってトランプ大統領の宣言にいわゆる「安全保障関係にある国」との代替的手段の交渉の対象となる可能性がある。EUも北大西洋条約機構(NATO)に基づく同盟関係に基づき適用除外の可能性がのこっている。

仮に日本やEUが輸入制限の対象外になった場合、主に影響を受ける輸出国は、ブラジル、ロシア、韓国、中国、そして中東各国ということになる。ブラジルはオバマ政権時代に通貨安を通じた貿易戦争(通貨戦争)の急先鋒となった国である。また韓国・中国・中東はいずれもトランプ政権と政治的緊張関係にある国である。トランプ氏は本来ロシアのスタンスを明確にしていたが、ロシアゲート事件の捜査進展の状況からは従前の様な個人的人脈による関係を維持しうるとは考えにくい。こうした状況からは、トランプ大統領が輸入制限措置を選択的に適用することで、相手国に対する政治的スタンスとの整合性を確保することは可能である。輸入制限措置を政治的交渉のカードとして使用するにとどめるならば、世界経済への悪影響が最小限にとどまるシナリオを描くことは可能である。
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