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中銀の独立、インフレ目標、アコード

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各種報道によれば、政府と日銀は明日22日の日銀金融政策決定会合後の公表にむけて、2%のインフレ目標を含む共同文書の調整を行っているとのことだ。この動きに関わる論点である「中銀の独立」「インフレ目標」そして政府・中銀の「アコード」につき直前ながら整理する。

(なお、ここで「アコード」とは協定・共同声明・共同文書等の形態を問わず、政府と中銀が共通の目標について政策協調するとりきめをさす)

中銀の独立が必要なわけ

「中銀の独立性」の目的は、金融政策の政治利用を防ぎ適切な金融政策運営を担保することである。歴史的には、政府は国民の人気を得るために緩和的金融政策を選好しやすく、これが繰り返されると過度なインフレを起こす恐れがある。これを未然に防ぐことが中銀の独立の意義である。

一方、中央銀行は議会制定の法律(日本では日銀法)に基づき設立され金融政策を行うわけだから、政府や議会の意向を全く無視して金融政策ができるわけではもちろんない。日銀法は日銀の金融政策の「理念」(最終目標)として「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資すること」を定めている。中央銀行はこうした最終目標の達成のための金融政策を行う必要がある。

この考え方からは、中銀の金融政策の最終目標や中間目標(たとえばインフレ目標)を政府や議会が設定してもそれ自体が中銀の独立を侵すことにはならない。最終目標や中間目標が国民経済の健全な発展に等しく恒常的に寄与する形で設定される限りにおいては、これらの目標を政府が定め事自体に問題はないといえる。

政府の定める目標が中銀の独立を侵す虞があると考えられる例には以下のようなものが考えられる。まず、目標がマクロの国民経済の健全な発展に資さない、または政権政党の支持基盤など特定セクターだけを利するものであるケース。次に、目標が短期的かつ環境に応じ頻繁に変動させることができるようなケースである。これらのケースは、政治家が選挙前など状況に応じ人気の取りやすい目標を設定して金融政策をゆがめる虞がでてくる。

また、政府は中銀の政策手段(金融調節のためのオペなど)や操作目標(政策金利や日銀当座預金残高)に対して政府が関与することは中銀の独立の観点から疑念があるといえそうだ。政策手段や操作目標は極めて短期的な手段・目標である。これらを政治的に操作することによって短期的に国民の人気をとろうとする政治家が仮にいた場合、金融政策の最終目標への道筋を誤らせる可能性があるからだ。

インフレ目標設定の仕方

インフレ目標の設定は、それを中銀独自で設定しても政府・中銀の協議でも、また政府が設定してもそれ自体は中銀の独立を侵さない。物価の安定は国民が等しく求める福利だからである。

しかし、設定するインフレ目標は恒常的に国民経済の健全な成長に資する水準でありかつそれは「長期的」な目標であることが必要といえる。インフレ目標が専ら短期的にインフレ率を上下に動かすことを目的とすると、国民経済の健全な発展という最終目標に向けた金融政策にゆがみが生じる可能性がある。

目標達成についての中銀の責任はどうか。目標を設定する限り設定者に対する「説明責任」があると考えるのは自然である。しかし、目標達成の「結果責任」となると状況に応じ微妙だ。インフレ率の決定要因が中銀の金融政策のコントロール外のものがある場合は、目標未達の際の結果責任を中銀のみに負わせるのは合理的ではない。

2%のインフレ目標がよいわけ

インフレ目標を採用する各国中銀は、目標値として2%もしくはその前後のレンジを設定しているところが多い。2%のインフレ目標つまりいわゆるマイルドなインフレの持続が望ましいとされるのは以下の理由からである。

まず、インフレ率が2%で推移していれば市中金利を概ね3~5%の心地よい水準に維持し、景気悪化の際に利下げを行うことができる。金利は通常インフレ率と成長率で決定されるとされる。ある国の持続可能な成長率3%、持続的なインフレ率が2%とした場合、金利はこの合計である5%と決定される。景気が悪くなったときには政策金利を引き下げることで金利を4%なり3%なりに引き下げて景気を刺激することができる。国民生活のためにはインフレ率ゼロがよいようにも見えるが、その場合金利がわずか3%になってしまい、景気悪化の時の利下げの余地が狭くなるという不都合がある。

次に、マイルドなインフレの持続は消費者や企業に財・サービスの購入を前倒しにするインセンティブを与え、経済のスパイラル的拡大をもたらす。持続的なインフレ状態では、家計や企業に「将来も物価が上がる」というインフレ期待がある。すると彼らは物価が上がる前に財・サービスを購入しようとするだろう。一方インフレ率が低すぎたりマイナスだと、将来の物価下落を見込んで家計や企業が財・サービスの購入を先延ばしする傾向が出てくる。これが経済の停滞や更なるデフレスパイラルを生み出す虞がでてくる。

こうしたことから2%レベルのインフレ目標は経済的にも正当化される水準だと言えるだろう。

景気のサイクルとトレンド

ここで留意すべき点がある。金融政策や財政政策は主として景気のサイクル(循環)をならすために用いるものであって、それだけで景気のトレンド(趨勢)や経済の構造要因を変えることはできないということだ。

景気のサイクルとは、周期的に景気が拡大と後退を繰り返すことをいう。景気拡大期には中銀は金融引き締めを行い政府は財政支出を抑制して景気の過熱を防止する。景気後退期には中銀は金融緩和を行い政府は財政支出を拡大して景気拡大への転換を促す。これで景気のサイクルをできるだけ均して景気変動を抑えようとするわけだ。

ところが、景気の長期トレンドはこれとは違う。景気の長期トレンドとは、その国が長期的に維持可能な成長のペースのことだ。通常ある国の景気は、上記のサイクルで上下しながら長期的にはほぼ一定のペースで拡大しているはずだ。ところが国の経済構造が大きく変動するとこの持続的成長ペースがある時点で大きく変わることもある。ある経済の持続的な成長ペースのことを潜在成長率という。潜在成長率は一般には、労働投入量、資本蓄積、全要素生産性で決定されるとされている。これらの要因は金融政策や財政政策でコントロールできるものではなく、より広く産業政策・雇用政策・技術革新などが必要な構造要因である。

「デフレ脱却」と言った場合に、これが単に物価変動サイクルがデフレ領域にあるのをインフレに持っていくことか、それとも構造的なデフレを解消しようとするものかで対応が変わってくる。

今の日本経済の固有の事情

以上が一般論である。ここで現在の日本経済固有の事情を2点考える。

第1に、現在日本はゼロ金利の状態にありかつ量的緩和を相当程度進めていることだ。これは、インフレ目標の達成に対して金融政策が貢献しうる余地がかなり制約されていることを示唆している。インフレ目標の達成には金融政策に加えた他の政策とのパッケージが必要だ。

第2に、日本は物価下落が長期間つづいていて、これはもはや循環要因とは呼びにくいことだ。循環的なインフレ率低下かつ相応の金利水準であれば、金利引き下げや市場へのマネー供給でインフレ率上昇サイクルへの転換を促すことも可能ではある。しかし、人口減少など構造的要因に根ざすと思われるデフレからの脱却はもはや一時的な金融政策や財政政策だけでは達成困難であろう。

期待される政府・中銀の協力のあり方

以上から、期待されるインフレ目標の設定の仕方と政府との関係を整理してみる。

第1に、2%インフレ目標は達成時期を定めないもしくは長期的目標とするのが合理的だ。2%というインフレ率は長期的に持続的な成長を続けるために最適なインフレ率であって、この目標は短期的な利益追求のためのものではないからだ。短期的インフレ目標は中銀の最終目標の達成をゆがめる可能性や金融政策の政治利用につながる懸念をはらむものと考える。

第2に、インフレ目標設定は政府と中銀が共同で行うのが効果的である。本来インフレ目標は上記のとおり中銀が設定しても政府が設定してもよい。しかし、ゼロ金利状態かつデフレが構造要因に起因すると考えられる現在の日本経済の固有事情を勘案すれば、政府・中銀の目標共有と責任分担ができる方法が効果的だ。

第3に、共同で設定したインフレ目標の達成に双方が一定の責任を負うことになる仕組みが効果的であろう。また目標に対する結果責任はその主体がコントロールできる範囲内にとどめるか、そうでない場合は説明責任にとどめるべきである。これは政府・中銀のいずれについても同じである。


(参照文献)
伊藤隆敏 2001年「インフレ・ターゲティング」日本経済新聞社
Ben S. Bernanke, et al. 1999. “Inflation Targeting” Princeton University Press
日本銀行ホームページ
各種報道等

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