<経済レポート> 生産性向上が鍵~米国の潜在成長率

  • カテゴリ:未分類
  • コメント:0件
  • トラックバック:1件
米議会予算局推計によれば、米国の潜在成長率は今後10年間平均で+2.1%とされている。中長期的に潜在成長率が低下している要因は主に人口動態と社会環境変化による労働力人口の伸び鈍化とされている。今後潜在成長率を向上させようとすれば新たな技術革新や高生産性産業の復活が必要になる。

米国の潜在成長率は長期的な低下トレンドにある

米国の潜在成長率は長期的な逓減トレンドにある。[第1図]は、シンプルなオークンの法則に基づき失業率の前期比変化とGDP成長率実績から潜在成長率を推計したものである。回帰式〔(実質GDP前期比年率成長率)=α*(失業率の前期比変化幅)+(定数項)〕における定数項は、失業率が変化しない水準の成長率、つまり潜在成長率を表す。2009年から2013年までの20四半期データに基づく米国の潜在成長率は約+1.8%と推計できる。これを過去に遡り20四半期ローリング回帰した結果をプロットしたのが[第2図]の点線グラフである。

米議会予算局(CBO)は、4日に公表した「2014-2024年財政・経済見通し(The Budget and Economic Outlook: 2014 to 2024)」において、米国潜在成長率推計の年次アップデートを行っている。CBO「見通し」による潜在GDP推計値に基づき現状の米国の潜在成長率を計算すると、2013年10-12月期時点で+1.7%と、上記推計に近い結果になった。また両者の推移を過去に遡ってプロットしてみると、いずれの推計値も潜在成長率が2000年前後にピークアウトしたのち逓減を続けたこと、また金融危機後2010年頃からやや持ち直しの兆しを見せていることを示唆している([第2図])。

しかし以下に述べるように、今後米国の潜在成長率が大きく反転上昇する可能性は低い。その要因、人口動態と社会環境による労働力増加ペースの減速、及び企業の設備投資に大きなのりしろ(slack)があることだ。今後潜在成長率が本格的に高まるためには90年代のIT革命のような技術革新による生産性向上が必要になる。以下、CBOの分析を参考に米国の潜在成長率の構造と行方を見てみる。

[第1図]
20140216図1
[第2図]
20140216図2

今後大幅な潜在成長率上昇は見込めない:米議会予算局見通し

CBOは、潜在GDP推計に当たり労働投入量・資本蓄積・全要素生産性の3つを説明変数とする生産関数を使用している。CBO推計による戦後から現在までの潜在成長率と各変数の寄与度の推移は[第3図]の通りである。すなわち、戦後から1970年までは労働投入量と資本蓄積の増加、及び生産性の向上で潜在成長率は高水準にあった。しかし、戦中の生産能力低下の反動による潜在成長率拡大は70年代に一服した。70年代以降は主に労働投入と資本拡大が潜在成長率を支えたが、生産性上昇がピークアウトしたことで全体の成長率は低下が続いた。ところが、90年代から2001年にかけてIT革命による全要素生産性の上昇が牽引役となり潜在成長率が再び上昇した。その後2001年以降は主に労働投入量と資本蓄積の減速が潜在成長率を低下させている。

今後の潜在成長率につきCBOは「見通し」で次のように予測している。すなわち「今後10年間に亘り潜在産出量は年率+2.1%の水準で成長する、これは1950年以来の平均成長率より大幅に低い」とし、その要因として、①ベビーブーマー世代の高齢化による潜在的労働力人口の伸び減速、②一部の人口層における労働参加率の低下(特に女性の労働参加率が最盛期からピークアウトしたこと)、③労働力人口増加減速による資本蓄積増の抑制、を挙げている。さらに、④リセッション影響の長期化、⑤連邦政府の税制と歳出政策、も潜在成長率を抑制する背景だとしている。潜在GDPの決定要因別には、まず非農業部門の労働投入量は上記の要因から「2018年~2024年の間年率+0.6%の増加」にとどまるとしている。非農業部門の資本蓄積は「2018年から2014年の間年率+3.2%の増加」「これは1980年~90年の平均よりも低いが2002年~2013年までの平均よりも高い」と予測し、その背景として「企業はリセッションの間手控えていた」ものの、上記労働力人口の伸び減速が資本蓄積を抑制するとしている。またこれらを合わせ、CBOは今回の「見通し」で潜在GDP推計値を前回(2013年2月)の推計値から下方修正した。

以上をまとめると、米国の潜在成長率低下は主に労働力人口の伸び率減少(ベビーブーマー世代引退という人口動態要因と、労働参加率低下という社会構造要因による)および、資本蓄積の減速が要因であり、この傾向は今後20年間ほぼ同様に継続するということになる。

[第3図]
20140216図3
[第4図]
20140216図4

労働力人口増加ペースの減速が潜在成長率の低下要因

CBO推計では米国で今後約2%の潜在成長率が維持できるとしているが、これは今後米国の潜在成長率が歴史的にみてかなり低位な水準で推移することを意味する。この潜在成長率が今後大きく上昇する可能性は既述の材料からは期待しにくく、またCBO予測にはどちらかと言えば下方リスクがあると見たい。

まず、企業の資本蓄積が今後CBO予測通りに拡大するかは不確実といえる。CBOによれば資本蓄積はリセッション期の設備投資手控えの反動で増加するとされている。しかしCBOも指摘している通り、潜在GDP下方修正後も米国経済には大きな「のりしろ」がある。CBO推計の潜在GDPを基に米国経済の需給ギャップを試算してみると、2013年10-12月期時点で-3.8%のマイナスとなる。今回のCBOによる潜在GDP推計値の下方修正により、昨年2月時点の推計値に基づく試算値よりも実際のマイナス需給ギャップはかなり小さかったことになる([第5図])。しかしながらその水準はリセッション前に比べてまだ大きい。筆者試算では今後毎年3%の成長が継続したとしてもマイナスの需給ギャップ解消には2019年までかかる計算になる。また、鉱工業生産指数は1月時点でリセッション開始時期である2007年12月の水準を回復しているにも拘らず、設備稼働率や失業率はまだ当該期の水準を回復していない。相対的に経済にはまだ大きなのりしろがある。こうした環境下では企業設備投資は当面大きな拡大は望みにくいと言える(企業設備投資見通しについては2013年11月13日付当レポート参照)。

次に、今後の生産性の持続可能性の問題がある。CBOの潜在成長率予測は全要素生産性が今後「2018年~2024年にかけて+1.2%」と「2002年以降より幾分早いペース」を維持することが前提となっている。ここで、全要素生産性の一部をなす労働生産性の推移を見てみよう。米労働省労働生産性統計によれば、非農業部門の労働生産性(時間当たり産出量)〔=(実質GDP)/(総労働時間))〕のトレンドは90年代のIT革命期に急上昇したのち2000年頃をピークに低下し、現在のトレンドは前年比+1.8%の水準にある。これは80年代後半から90年代前半の水準にほぼ相当する([第6図])。労働生産性の水準がこのレベルに今後も維持されるならば、米国の潜在成長率はCBO推計通りに今後平均2.1%レベルで推移する可能性が高いことになる。ちなみに2013年単年の労働生産性は前年比+0.6%の低位にあり、今後このトレンドが更に下方に向かう可能性もあるといえる。

[第5図]
20140216図5
[第6図]
20140216図6

労働生産性の伸びが鍵:技術革新か高生産性分野の復活に期待

労働力人口の伸び減速が人口動態と社会要因による構造的なものであり、経済ののりしろが大きい間は資本蓄積が伸びないならば、生産性の向上がなければ潜在成長率は加速しにくいことになる(米国の労働参加率低下要因については1月13日付当レポート参照)。過去の米国の労働生産性の伸びの推移を見ると、90年代から2000年にかけてインターネット中心のIT革命期に労働生産性が一躍向上したが、ITバブル崩壊後は(リセッション期に労働投入量減少で数値上労働生産性が上昇した時を除き)技術革新による労働生産性の大幅な向上は見られない。

経験則では一般に、労働生産性の伸びは非製造業よりも製造業の方が大きい。[第7図]によれば過去約20年の殆どの時期において、製造業の労働生産性の伸びが非農業部門全体を上回っている。これは、主に資本集約的な製造業が技術革新の恩恵をより受けやすいことに起因していると憶測できる。非製造業で主に知的サービスを提供する分野(IT技術者、経営コンサルタントなど)は製造業に比べより労働集約的な産業といえるが、かかる分野では産出量は主に従事する労働者の熟練度や労働時間に依存すると考えられる。

米国経済の産業構造は生産性の飛躍的向上を期待しにくい形状になっている。製造業のシェアは構造的に低下しており、民間雇用者数に占める製造業の割合は10%を切っている([第8図])。非製造業の中でも金融業や不動産業は伝統的に労働生産性の高い業種であるが、これらは金融危機以降その地位を大幅に後退させている。一方、非農業部門雇用者数のうち常に高い雇用増を示しているのが上記IT技術者やコンサルタントなどを含む「専門ビジネスサービス」分野である。また伝統的に生産性が低いとされる「医療・教育」分野も米国の雇用増を常に支える位置にある。さらに米国では他の先進国同様、資本集約的な製造工程を海外に移転する傾向があり、結果労働集約的産業が国内に残ることになる。こうした産業構造を前提とすれば、米国の潜在成長率上昇のために、新たな技術革新か労働生産性の高い分野の復活が期待されることになる。

[第7図]
20140216図7
[第8図]
20140216図8
スポンサーサイト

コメント