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<経済レポート>これからは供給力強化~日本のGDPギャップ

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黒田日銀総裁の「人手・投資不足を懸念」発言の通り、日本の需給ギャップは急速に縮小しており、今年中にも需要が供給を超過する見込みだ。しかし生産要素の労働力と資本はともに、労働力人口への再流入や設備稼働率引き上げによる増加の余地があり、潜在成長率上昇の可能性はある。なお、需給ギャップ縮小で日本はデフレ状態から脱したと考えられるものの、2%のインフレ目標達成への道のりはまだ長いと見る。

マイナスの需給ギャップは今年中に解消へ

黒田日銀総裁は、24日付日経新聞のインタヴューで「どうやって供給力を高めるか、政府、日銀、民間で考えて努力する必要がある」「労働市場を中心に(供給力と需要の差を示す)需給ギャップが急速に縮んできている」と述べている。黒田総裁指摘のとおり、2013年以降の成長加速で日本経済の需給ギャップは急速に縮小している。本レポートでは日本経済の需給ギャップの動向と、供給力を高めるための方策、また需給ギャップ縮小が経済に与える影響を見る。

日本経済の需給ギャップを2通りの方法で推計してみよう。まず内閣府は、1-3月期時点でマイナスのGDPギャップは‐0.3%に縮小、また潜在成長率を+0.7%程度と推計している(5月23日内閣府)。内閣府によれば、昨年10-12月期時点のGDPギャップは‐1.6%だった。1-3月期の成長率大幅拡大(前期比+1.5%、同年率+5.9%)でこのギャップが一気に縮小した形だ。筆者個人の予想では、今後GDP成長率は駆け込み需要の反動で4-6月期に一時的にマイナス成長に転化ののち、7-9月期以降プラス成長を回復するとみている。筆者個人の成長予想に基づけば、マイナスのGDPギャップは今年の10-12月期に解消する計算になる(第1図)。マイナスの需給ギャップが解消するのはリーマンショック直前の2008年以来およそ6年ぶりのこととなる。

次に、実質GDPの過去の推移からトレンドを抽出する方法で潜在GDPを推計し、これとの対比で需給ギャップを推計してみる。統計上連続性のある1994年~2013年の実質GDP実績値(暦年年次データ)を対数化しHPフィルターを用いて平滑化した結果が[第2図]である。平滑化により取り出したトレンドを潜在GDPとみなすと、2013年時点ですでにGDP実績値はトレンドを上回っている。すなわちこの方法によれば、昨年時点で日本経済のマイナスの需給ギャップは解消済で、需要超過の状態になっていたことになる。

[第1図]
20140529図1

[第2図]
20140529図2

デフレの間資本ストックは増加、労働投入量は減少を続けた

日本のデフレの要因の一つに、過剰生産設備や過剰労働力によるマイナスの需給ギャップ、つまり供給力が需要を上回っている状態があるとされてきた。しかしながら、リーマンショック後今日までの需要回復により需給ギャップはほぼ解消し、需要が供給を上回る状況が近づいていることになる。こうなると、需要不足を前提に考えられてきた経済政策や財政政策は大きな転換を迫られることになる。今後供給力不足の事態を回避するためには、労働力や資本という供給力を拡大して潜在GDPを需要に見合う形で引きあげる必要がでてくるからだ。

現在の日本の持続的な供給力拡大ペース、つまり潜在成長率は極めて低いとされている。前述のとおり内閣府は日本の潜在成長率を約+0.7%と推計している。オークンの法則を用いて、失業率を変化させない成長率としての潜在成長率を試算すると、ここでも潜在成長率は約+0.6~0.7%との結果になった([第3図])。一方で最近の日本の成長率は、2012年が前年比+1.4%、2014年が同+1.6%と潜在成長率を大きく上回っており、2014年は消費税率引き上げにも関わらず+2%台の成長を個人的には予想している。こうした総需要拡大の牽引役は個人消費である。成長には財政出動による公的需要も寄与しているものの、その寄与は2013年4-6月期をピークに低減している。国内民間最終需要(個人消費+住宅投資+設備投資)は駆け込み需要もあり2013年7-9月期以降拡大が加速している。需要拡大が財政政策による一時的なものでは必ずしもなく、民間内需主導による持続的なものである可能性が高いことに鑑みれば、供給力の拡大は重要な課題といえる。

GDP産出に当たり投入される生産要素は「資本」と「労働」である。これらの生産要素の中期的推移を見ると極めて明瞭な傾向が見て取れる。[第4図]によれば、過去20年間、労働投入量(就業者数×総労働時間)はほぼ一貫して減少基調にある。一方、ネット資本ストック(民間企業資本ストック-純除却額)はほぼ一貫して増加基調にある。つまり過去20年間の―いわゆるデフレの期間―雇用と労働時間は短縮し続けた一方、民間企業設備投資はほぼ継続的に拡大し続けたことになる。

[第3図]
20140529図3

[第4図]
20140529図4

労働生産性は資本の生産性に勝っている

そこで、今後供給力を拡大していくためには、資本ストックを更に増やすか、またはこれまで減少し続けてきた雇用と労働時間を拡大させるかのいずれかが必要ということになる。ところで、一般的に日本のネット資本ストック(企業設備投資)は余剰であるというのが一般的な生活感である。たとえば今年2月の製造工業の稼働率指数は104.9ポイント(2010年=100)で、リーマンショック直前の2008年2月につけたピーク119.4ポイントに比べてまだ低水準にある。また、ネット資本ストックのGDPに対する比率(資本係数)は、過去20年間上昇基調から横ばいに転じつつあるも、水準は極めて高い。つまり、過去20年間企業は経済成長を超えるペースでの設備投資拡大を継続してきたことになる。

それでもなお、マクロでみると日本の経済は供給力が不足しつつあるという背景には、資本生産性の低下の可能性が考えられる。資本係数はGDP一単位の産出に必要な資本の単位をも表しており、資本係数の上昇は産出一単位に必要な資本の額が増加している、つまり資本一単位当たりの産出量が低下していることを表す。資本係数の逆数である資本生産性(資本一単位当たりの産出量)は資本係数の上昇とは逆に過去20年間低下を続けている。一方、労働投入量は20年間減少基調にあることから、労働生産性(実質GDP/労働投入量=就業者の一時間当たり産出量)は一貫して上昇している([第6図])。なお、内閣府は潜在GDP推計における生産要素の投入量に平均概念(資本投入量=資本ストック×稼働率)を用いている。これに倣うならば資本生産性も稼働率勘案後の資本投入量で試算するのが整合的であるがここでは簡便に資本ストックで計算した。

これらの生産要素つまり労働投入量とネット資本ストックの、産出に対する関係を同時に表すために、以下のコブ・ダグラス型生産関数を考える。
  ln(Y)=α*ln(L)+β*ln(K)+ln(ɤ)
ここで、Yは実質GDP、Lは労働投入量、Kは資本ストック、αは産出の労働投入量に対する弾性値(産出の労働弾力性)、βは産出のネット資本ストックに対する弾性値(産出の資本弾力性)、ɤは全要素生産性を表す。1994年~2004年の四半期データを用いて、上記生産関数に基づき各弾性値を回帰分析により推計した結果が[第1表]である。推計においては、Lとして就業者数を用いた場合(①)と、労働投入量(=就業者数×総労働時間)を用いた場合(②)の2通りの推計を行った。結果、いずれの場合も有意性に一部弱さがみられるものの、産出の弾力性は労働投入量に対しての方がネット資本ストックに対してよりも大きいということを示唆する結果になった。つまり労働一単位の方が資本一単位の投入よりもより多くの産出をもたらすということである。これは、上記で見た労働生産性の上昇と資本生産性の低下という関係とも整合している。

[第5図]
20140529図5

[第6図]
20140529図6

[第1表]
20140529表1

労働力供給拡大は可能、あとは生産性向上が課題

労働力は、人口動態要因などの制約を受けるため設備投資に比べて供給の制御が一般的には困難である。日本は人口減少国であり人口動態的には労働力による供給力強化には大きな制約がある。また、完全失業率は現在4%を割り込む水準にあり、ほぼ自然失業率に近い水準にあるといえる。つまり需給ギャップが示唆するように労働市場もほぼ需給が均衡するまでに労働需要が拡大済ということである。しかし、今後も労働力の供給が拡大する余地は残っている。労働力率(「労働力人口」の「労働力人口+非労働力人口」に対する比率)は、金融危機以降一貫して低下を続けた後、2012年に底入れして現在は上昇基調に転じている([第7図])。つまり金融危機による景気後退でいったん労働市場から退出した人口が景気回復とともに労働市場に再流入している。失業率自体は現状以下に低下する余地がなくとも、労働力人口の増加により労働力の供給拡大は可能ということになる。資本については、設備稼働率に上昇余地があることから、追加設備投資を伴わずともある程度の供給力拡大は可能である。

労働・資本の生産要素に加えて産出を決定するもう一つの要因である生産性についてはその向上が潜在成長率引き上げには有効である。上記[第1表]の②の推計式から試算した全要素生産性の伸び率の推移が[第8図]である。この試算によれば、全要素生産性の伸び率は金融危機直後の2009年をボトムに底入れしているものの、いまだ前年比マイナス圏にある。2000年代の生産性の大幅上昇時期との比較では現在の生産性は大幅に低下しているといえる。

最後に、需給ギャップとインフレ率の関係について述べておく。需給ギャップとインフレ率(生鮮食品を除く消費者物価の前年比伸び率)によるフィリップス曲線によれば、インフレ率をプラスに維持するためにはマイナスの需給ギャップが-2%以下に縮小することが必要となる。内閣府推計によれば、マイナスのGDPギャップが-2%を下回ったのは2013年4-6月期である。つまり2013年前半で日本経済はデフレから脱却したとほぼみなせることになる。一方、日銀が目標とする2%のインフレ率達成には、5%近い需要超過が必要になる計算となる。GDPギャップだけからは2%インフレの達成は正当化しにくいと依然言えるだろう。

[第7図]
20140529図7

[第8図]
20140529図8

[第9図]
20140529図9

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