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<経済レポート>準備は整いつつある~FRB金融政策予想

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インフレ率と失業率が適正な水準に接近してきたことから、FOMCは年内に資産購入停止ののち、来年半ばには利上げを開始すると個人的には予想する。テイラー・ルールによる適正な政策金利の推計値はこの見方を支持している。一方リスク要因は、イエレン議長がインフレ・失業率のいずれにもまだ慎重な見方を崩していないこと、また直近のGDP統計の大幅下方改訂によるマイナス需給ギャップの再拡大である。

FOMC委員の利上げペース予測は前倒し方向にシフトしている

FRBは昨年12月の定例連邦公開市場委員会(FOMC)で資産購入のペース縮小開始を決定して以来、6月17-18日の定例会合まで5回連続で資産購入を月当たり100億ドルずつ縮小してきた。6月会合では毎月の資産購入額を、住宅ローン担保証券150億ドル・長期米国債200億ドルの合計350億ドルにまで縮小することを決定。今後も毎回同額の資産購入ペース縮小を決定すれば、10月または12月の定例会合で資産購入の停止が決定される見込みである。資産購入が年内に停止されれば、次は利上げの時期が焦点になってくる。筆者は、インフレ率の上昇を背景に、FOMCは来年の半ばにFF金利誘導目標の引き上げを決定すると個人的に予想する。

6月FOMC声明文におけるゼロ金利政策に関するフォワードガイダンスは、3月声明文で失業率の低下を背景に変更されて以来ほぼ不変である。そこでは、現在のFF金利誘導目標をどれほどの期間維持するかについての評価は「労働市場条件の指標、インフレ圧力、インフレ期待指標、金融市場動向の指標を含む広い範囲の情報を考慮する」と謳っている([第1表])。さらに同フォワードガイダンスでは、資産購入終了後も現在のFF金利誘導目標を「相当の期間」維持することが適切であること、さらに雇用とインフレ指標が委員会目標と整合したあともFF金利誘導目標を「委員会が正常と見るより低い水準に維持する」可能性を示唆している。

6月声明文と同時に公表された四半期毎のFOMC委員経済予測([第2表])によれば、2015年の適切な利上げタイミングを2015年と予測する委員は16人中12人で、前回3月時点予測の13人からは1名減少している。しかし適切な金融引き締めのペースについて、2015年末に1%を超えるFF金利誘導目標を予測する委員は8名と、3月の5名から大幅に増加している。これは、2015年中の利上げ開始がFOMC内で多数意見であるのみならず、予想される利上げ開始時期が3月に比べて前倒しになっていることを示唆している。

イエレンFRB議長は18日のFOMC後の記者会見で、金融政策や金利の道程には「不確実性」があると繰り返し述べて、金融引き締め開始時期については慎重に示唆を避けた。また、議長はのちに見るように、最近失業率低下やインフレ率上昇も一時的な要因による部分が多いと見ている。以下では労働市場やインフレに関する指標を分析しながら、またFOMCによる評価を合わせて考察しながら、来年の利上げ開始時期を探ってみる。

[第1表]
20140629表1
[第2表]
20140629表2

失業率低下は順調:労働参加率についてイエレン議長は慎重

まず、労働市場の条件を示す失業率は5月時点で6.3%とFOMCが1月定例会合まで低金利継続の目途としていた6.5%を下回っている。このペースなら、年末までに失業率は6%レベルにまで低下することが予想できる。米議会予算局の推計(2月「財政・経済見通し」)による米国の自然失業率は2014年時点で5.8%とされており、失業率は年内にほぼ自然失業率に近いと水準にまで低下することが期待できる。その意味では雇用の最大化というFOMCの使命達成の目途は立ちつつある。

一方、FOMC委員やイエレン議長の労働市場に対する見方は依然として慎重である。6月FOMC委員経済予測によれば、2014年第4四半期の失業率予測の中心傾向は3月予測よりも下方にシフトし、6.0-6.1%となっている。しかし、長期の失業率予測(委員が長期的な均衡水準と考える水準)の中心傾向は5.2-5.5%と、議会予算局の推計する自然失業率よりもかなり低い水準にある。つまり、雇用最大化を示唆する失業率の水準をFOMCはかなり低いところにおいていることになる。また、イエレンFRB議長は18日の記者会見で「失業率低下の一部は労働市場の縮小を反映していない」「最近見られる失業率低下の一部はおそらく影の失業もしくは求職意欲喪失の反映であり、これは労働人口への参加者の循環的な部分である」と述べ、今後経済回復とともに求職意欲喪失者が労働力人口に再流入すれば失業率低下ペースは減速すると述べている。イエレン議長は従前より、労働参加率の低下は構造要因ではなく循環要因であり、つまり緩和的な金融政策により改善可能なものと見ている。

筆者は、労働参加率の低下はより構造的な要因だとみている。1月13日付当レポート、および6月18日付当レポートでは、労働参加率低下の要因が労働力のミスマッチや、労働力人口からの恒久的な退出による構造要因である可能性を見た。その一例として、非労働力人口のうち「就業意欲のある非労働力人口」の寄与度はほぼゼロにまで低下していることがあげられる([第1図]、なお2014年1-3月期には一時的に寄与度拡大しているが、これは寒波による労働力人口からの一時退出が背景と考えられる)。非労働力人口の増加はほぼ恒久的な要因が大きくなっていることを示唆している。今後労働参加率が金融危機以前の水準にまで回帰する可能性は低く、したがって労働力人口への再流入による失業率の再上昇は考えにくいと見たい。

[第1図]
20140629図1

インフレ率は2%に向けて確実に上昇している: イエレン議長はノイズに慎重

FOMCがインフレ指標とする個人消費支出価格指数(PCEデフレーター)は、総合指数が5月時点で前年比+1.8%、同コア指数が同+1.5%にまで上昇しており([第2図])、FOMCが目標とする2%に接近している(6月FOMC時点で判明していた4月時点の伸び率は総合指数が同+1.6%、コア指数が同+1.4%)。また消費者物価指数(CPI)は5月時点で同+2.1%と2ヶ月連続で2%台の伸びを見せ、コア指数も5月に同+2.0%に達している。5月11日付当レポートでは、PCEインフレ率が年末にかけて1.7%レベルに上昇すると筆者は見たが、現在のインフレ率上昇ペースはこれを上回るものである。またFOMCが評価対象とする期待インフレ率も安定から上昇の兆しがみられる。ミシガン大学消費者センチメント調査による12ヶ月後の期待インフレ率はここ数ヶ月に底入れして上昇に転じている([第3図])。インフレ率上昇と期待インフレ率上昇の兆しは、来年の利上げ開始を近々正当化する水準に達する可能性が高い。

6月FOMC委員経済予測では、2014年のPCEインフレ率予測中心傾向は上限がわずかに上方シフトして、第4四半期の前年同期比で1.5-1.7%、またコアインフレ率予測中心傾向は+1.5%-1.6%となっているものの、3月予測から大きな変動はない。6月FOMC時点で公表済だった4月PCEデフレーターの前年比の伸び率がすでに+1.6%に上昇していたことからは、FOMC委員のインフレ予想は相対的には控えめだといえる。イエレン議長は18日の記者会見でインフレ率についても慎重な見方をしている。議長は記者会見の質疑応答で最近のCPIのデータには「ノイズがある」として、インフレ率上昇が一時的なものであると見ていることを示唆している。また「ノイズから抽出した最近の証跡からは、時間をかけて徐々に2%の目標に回帰していく」と述べ、2%へのインフレ率回帰があくまで「徐々に」であると見ていると述べている。

インフレ率に含まれるノイズとしては、エネルギー価格の一時的上昇が考えられる。確かに総合指数においてはエネルギー価格が、またコア指数においては運輸サービスなどエネルギー価格の影響を受けやすいサービス品目がインフレ率を押し上げていることは事実である。しかしながら一方で、失業率の低下が時間当たり賃金の押し上げ要因になる兆しがかなり明らかになっている。また欠員率の上昇や週平均労働時間の増加など、労働市場がタイト化しつつある証跡が徐々に出てきている。6月18日付当レポートでみたように、労働市場の余剰は見かけよりも小さいと考えられることから、今後賃金上昇が更に消費者インフレ率を押し上げる趨勢的な要因になると見る。

[第2図]
20140629図2
[第3図]
20140629図3

1-3月期成長率の下方改訂はリスク要因

経済成長は総じて順調であるが、直近の統計はややリスク要因となっている。6月FOMC委員経済予測では2014年の実質GDP成長率予測(第4四半期前年同期比)の中心傾向は2.1-2.3%で、3月時点の+2.8-3.0%から大きく下方シフトしている。これは1-3月期の実質GDP成長率が予想外にマイナス成長になったことの反映である(6月FOMC時点で公表済の数値は改訂値の前期比年率-1.0%)。筆者のこの時点での2014年の成長予想は同じ第4四半期前年同期比では+1.6%である。さらに、25日に公表された確報値では、1-3月期の成長率は-2.9%に下方改訂されており、筆者試算では10-12月期の前年同期比の成長率は+1.3%に下振れする計算になる。成長率に関してはFOMC委員の予測は楽観的になる傾向があるが、これは6月予測でも同様の傾向である。

6月のFOMC声明文は経済成長につき「経済活動の成長はここ何ヶ月か反発した」としている。またイエレンFRB議長は6月FOMC後の定例記者会見で「第1四半期に実質GDPは減少したものの、この減少は主に一時的要因による結果と見える」としており、寒波の影響が剥落した4月以降にGDPは再び拡大に向かっていると見ているようだ。

GDP統計の下振れは、統計要因による一時的なものと筆者は見る。しかしインフレ率や金利引き上げ決定に対してはマイナスの需給ギャップの再拡大という形で影響を与えるため、筆者予想に対するリスク要因といえるだろう。1-3月期の-2.9%のマイナス成長によりマイナス需給ギャップが大幅に再拡大した。米議会予算局の推計による潜在GDPをもとにした筆者試算では、米国のマイナスの需給ギャップは2014年1-3月期時点で-5.1%と、前期の-4.0%から実に1%以上も拡大したことになる([第4図])。また、GDP統計の下方改訂前においてさえも、FOMC委員の成長予測がかなり楽観的であることは、来年半ばの利上げシナリオに対するリスク要因である。

[第4図]
20140629図4

テイラー・ルールは来年半ばの利上げ開始を示唆:来年末のFFターゲットは1%以上に

総合的に見れば、以上の労働市場関連指標とインフレ指標は総じてFRBによる来年半ばの利上げ開始を支持しているといえる。そこで、シンプルなテイラー・ルールを用いて適切な利上げ時期を推計してみることとする。テイラー・ルールとしては以下の公式を用いる。

     it=2+πt+α(πt-π)+β(yt-yt*

ここでitは適切な政策金利、πtはインフレ率実績、πはインフレ率目標、ytはGDP実績、yt*は潜在GDPである。インフレ率はPCEデフレーターの前年同期比の伸び率を用い、2014年4-6月期にこれが2%に達したのち2015年いっぱい2%で推移すると前提する。インフレ率目標は2%とする。GDPについては、2014年4-6月期以降は筆者個人予想、2015年は3%成長と前提する。潜在GDPは米議会予算局の2月時点の推計値を用いる。また係数はα=0.5、β=1.0を用いる注1)

試算の結果は[第5図]の通りである。2014年1-3月期時点ではテイラー・ルールに基づく適正な政策金利は-2.5%といまだマイナス金利の領域にある。しかし、今後インフレ率の上昇とマイナス需給ギャップの縮小に伴い適正な政策金利のマイナス幅は縮小し、2015年4-6月期にほぼゼロに、7-9月期には約+0.2%に上昇する計算となった。実際にはPCE総合インフレ率はCPI同様に来年には2%を超える伸び率になる可能性が高い。従って現実にはこの試算は、来年半ばころからFF金利誘導目標の引き上げを開始することを正当化する結果だといえる。来年半ばに利上げを開始すれば、FOMC一回当たり0.25%の利上げ実施として、2015年末のFF金利誘導目標は1.25%レベルになると計算できる。これは6月のFOMC委員の予測(2015年末のFF金利誘導目標を1%と予測する委員、1.25%と予測する委員がそれぞれ3名ずつ)とも整合する結果である。

[第5図]
20140629図5

出口戦略の詳細は年末に公表予定: バーナンキ「原則」よりリベラルになりそう

以上より、2015年半ばのFF金利誘導目標引き上げ開始、2015年末のFF金利誘導目標は1%~1.25%を筆者の個人予想とする。もっとも金融政策正常化へのプロセスはFOMC内でも未確定であり、今後FOMC内の議論も参照しつつプロセス予想を策定する必要がある。一つの基準となるのは、2011年6月に当時のバーナンキ議長の下のFOMC議事要旨で公表された「出口戦略諸原則」である。これによれば金融政策正常化は、①保有資産再投資停止、②フォワードガイダンス改訂と資金吸収オペ開始、③FF金利誘導目標引き上げ、④住宅ローン担保証券売却開始、のプロセスによることとされていた([第3表])。これは、FRBのバランスシート縮小と金利引き上げを平行して実施する極めて正統的な手法だといえる。

しかし、イエレン議長はこの出口戦略諸原則をそのまま今後の正常化に適用する意図はないようだ。4月FOMC議事録によれば、会合では金融政策正常化の手段として、①超過準備への付利金利引き上げ、②リバースレポ操作(RRP)、③ターム物預金ファシリティ(TDF)などの手段が検討されている。イエレン議長は18日記者会見の冒頭発言で「委員会は正常化に関わる多くの課題を建設的に検討中であり今後の会合でも議論を継続する、追加的な詳細は今年の後半に提供できると期待している」と述べ、年後半に具体的な出口戦略を公表する意図を表明した。一方、2011年の出口戦略原則については質疑応答で記者の質問に答えて「再投資の停止如何は未定」また「住宅ローン担保証券の売却は行わない可能性が高い」と述べている。イエレン議長はバーナンキ議長時代の想定よりもよりリベラルに信用市場に配慮した出口政策をとる意図が示唆されている。この点も年半ばのFF金利誘導目標引き上げ予想に対するリスクといえよう。

[第3表]
20140629表3

注1)テイラー・ルール公式と係数は、2012年6月6日のイエレンFRB副議長(当時)の講演Janet L. Yellen, “Perspectives on Monetary Policy”, June 6, 2012に倣った。

(訂正)8月14日、「テイラー・ルールは来年半ばの利上げ開始を示唆」の節の記述と[第5図]を訂正しました。
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