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綱引きの行方に注目~米政府自動歳出削減の影響

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米国の連邦政府歳出の自動削減実施が迫っている。経済への悪影響を抑制するための方策が2月中に米議会で合意されるとの見方をメインシナリオとして維持する。しかし仮に削減が完全実施された場合には、これが今年の成長率予想を-0.5%引き下げる可能性がある。民主党・共和党の対立と交渉状況に今月一杯留意したい。

終わりなきTug Of War

米財政管理法Budget Control Act of 2011に基づく米連邦政府の自動歳出削減sequesterの暫定凍結期間は2月末で終了する。この自動歳出削減の今後の取り扱いをめぐり米政府・議会では民主・共和両党の対立がまたも激化している模様だ。

オバマ大統領は5日、歳出削減と税制改正を伴う新たな立法により自動歳出削減を再延期することを議会に要請した。同日大統領は演説で「財政の崖解決の手続が長引いたことが消費者信頼感を悪化させた」「大規模な歳出削減の懸念はすでに企業の経営判断に悪影響を与えている」として「ほとんどの米国民が活用できない税の抜け穴や減税措置を、最富裕の個人や企業が享受できなくする税制改正が必要」とした。その上で、今年の初めに成立した富裕層増税と自動赤字削減凍結法案と「同様でやや小規模な歳出削減と税制改正の法案を議会は成立させ、自動赤字削減の経済的悪影響をあと数ヶ月遅らせる」べきだと主張した。

これに対し、共和党のベイナー下院議長は「米国民は、増税をもって必要な歳出削減に代えることを支持しない」と述べ、引き続き増税に反対の旨を表明した注1)。財政をめぐる民主・共和両党の綱引きTug Of Warがまたも繰り返されている。

自動赤字削減の根拠法は2011年財政管理法

米連邦政府の自動歳出削減の根拠は2011年8月2日に成立した2011年財政管理法Budget Control Act of 2011にある。その背景はさらに2010年12月のいわゆるオバマ減税の時期に遡る([第1表]参照)。

2011年夏に、米連邦政府の公的債務残高が議会の定める債務上限(当時14.3兆ドル)に達した。米財務省は、この債務上限を8月2日までに議会が引き上げねば連邦政府閉鎖に至る虞れがあると懸念を表明していた。民主党は債務上限引上げを主張、一方財政緊縮と小さな政府を唱える共和党が反対、との対立が期限ぎりぎりまで続いた。

結果、同年8月2日に成立した財政管理法では、2.1兆ドルの政府債務上限引き上げを認めると同時に、裁量支出の上限(キャップ)引下げにより2021年までに9170億ドルの財政赤字削減をすること、加えて超党派議員による赤字削減委員会を設立し追加で1.2~1.5兆ドルの財政赤字削減を2021年までに実現すべきことが定められた。同委員会は報告書を11月23日までに議会に提出し議会はこれに基づく赤字削減法案を12月23日までに可決することとされた。最低1.2兆ドルの赤字削減法が成立しなかった場合、同額の赤字削減実現のため、連邦政府の自動歳出削減が2013年1月より実施されると定められた注2) 。しかし、超党派赤字削減委員会は財政赤字削減報告書を期限の11月23日までに議会に提出することができず、ここで2013年1月からの歳出自動削減条項の適用が決定した。

2012年には、延長ブッシュ減税・給与税減税・延長失業保険給付の期限が年末に同時に到来するいわゆる「財政の崖」注3)が深刻な問題となった。また、米連邦政府債務は2011年の上限引上げ後も増加を続け、2012年末には上記財政管理法に基づき引き上げられた16.4兆ドルにも到達した注4)

財政の崖問題は、2013年1月にいわゆる財政の崖回避法American Taxpayer Relief Act of 2012で、富裕層に対するブッシュ減税の一部終了と給与税減税廃止などで一旦決着した。同時に同法では、予算管理法に基づく自動歳出削減の実施を2ヶ月に限り凍結することが決定した。債務上限問題は、2013年1月に成立したNo Budget, No Pay Act of 2012で、5月18日までの債務増加分に等しい金額債務上限の引上げを認めることが決定した。

[第1表]
20130210表1

国防費など裁量的支出が大幅に削減される

予算管理法による財政赤字削減策は2つの方法によっている。ひとつは会計年度ごとの裁量的支出の上限(キャップ)引下げ、もうひとつは義務的支出と裁量的支出についての自動歳出削減sequestrationである。米連邦政府の歳出は大きく義務的支出と裁量的支出に分かれる。義務的支出には法令で定められた社会保障費やメディケア等医療制度関連支出が含まれる。裁量的支出には国防費およびその他の政府支出が含まれる。予算管理法では主に裁量的支出に自動削減を設けているほか、義務的支出に含まれるメディケア支出に一定の削減を求めている。

1月2日に成立した財政の崖回避法により、自動歳出削減の実施は3月初まで延期された。2013会計年度(2012年10月~2013年9月)予算における、実施延期前と延期後の歳出削減額の比較が[第2表]である。現状のまま自動歳出削減が実施されると、2013会計年度の歳出削減額は約853億ドル、2012年名目GDP比約-0.5%の歳出削減が実施される計算になる。これを暦年ベースに直してみると、歳出削減額の2013暦年の名目GDP比率は概ね-0.3%程度となる。

[第2表]
20130210表2

また、米議会予算局CBOは5日の「財政経済見通し」注5)で、財政の崖回避法の施行と3月からの自動歳出削減を前提とした財政見通しを公表している([第3表][第1図]参照)。CBOの見通しによれば、2013会計年度の歳出総額は前年度比+0.4%の増加にとどまる。内訳は、義務的支出が前年度比約+4%増加するものの、裁量的支出に対するキャップと自動削減がこれをほぼ同じ-4%減少させるという結果になっている。CBOによる歳出見通しを暦年ベースに直してみると、2013暦年の歳出総額は前年比約+0.8%の増加にとどまる計算になる。

[第3表]
20130210表3

[第1図]
20130210図1

完全実施なら成長率予想を約-0.5%押し下げ

筆者は、2013年の政府支出(連邦政府・州地方政府合計)が実質ベースで前年比約+1.4%増加すること、つまり歳出自動削減が全面実施はされないことを前提に、通年の実質GDP成長率を前年比+1.8%と予想している。仮に、自動歳出削減がCBO見通しの前提通りに完全実施された場合の影響を実質ベースで勘案してみると、自動歳出削減は2013年の実質GDPを約-0.5%押し下げ、通年の成長率は前年比+1.2%に下方シフトするとの試算になった。

なお、CBOは上記の2月財政経済見通しにおいて2013年の実質GDP成長率見通しを前年比+1.4%(第4四半期の前年同期比)としている。これは年初の財政の崖回避を反映して、昨年8月時点の見通しである同-0.5%から大幅に上方改訂したものだ。因みに筆者の試算である上記の通年+1.2%を第4四半期の前年同期比に換算するとこれも同じ+1.4%となる。

議会での決着がつくまで現状の成長予想を維持する

自動歳出削減の成長への悪影響は、乗数効果も勘案すれば理論的には-0.5%よりも少し大きい可能性がある。一方で、自動歳出削減の3月実施の如何は極めて政治的な力学に依存する。米議会についての過去の経験則からは、2月に何らかの妥協が成立して財政管理法通りの歳出削減は回避され、実際の歳出額への影響はCBO試算より穏当となる可能性が高いとみる。従って現状は通年成長率予想を+1.8%に維持する。議会での民主・共和両党の対立と交渉状況を見守りつつ、仮に3月からの削減完全発動が現実的になった場合には成長率予想の下方改訂を考慮することとしたい。


注1)Wall Street Journal, February 6, 2013
注2)Congressional Research Service “The Budget Control Act of 2011”, October 5 2011
注3) 2010年のいわゆるオバマ減税法Tax Relief, Unemployment Insurance Reauthorization, and Job Creation Act of 2010は、ブッシュ減税の当初期限2010年末を2012年末まで延長すること、給与税を2011年末まで2%減税すること、拡大失業保険給付を2011年末まで延長することが定められた。その後給与税と拡大失業保険給付は2011年12月のTemporary Payroll Tax Cut Continuation Act of 2011により2ヶ月暫定延長され、2012年2月のMiddle Class Tax Relief and Job Creation Act of 2012により2012年末まで延長された。
注4) 米連邦政府の債務上限は、政府債務増加に伴いほぼ継続的に引き上げられている。1993年4月に4.4兆ドルへの上限引上げから数えて、2011年の引上げは17回目である(Congressional Research Service “The Debt Limit: History and Recent Increases”, January 31, 2013)。
注5) Budget and Economic Outlook: Fiscal Years 2013 to 2023, February 5, 2013


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