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<経済レポート>独自色徐々に~イエレンFRB議長講演

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2日のイエレン議長講演における発言は、市場との対話としての早期利上げ期待に対するけん制の域にとどまらず、議長が自身の立ち位置を就任後初めて体系的に表明したものとして興味深い。イエレン議長は今後もそのリベラル色を徐々に前面に押し出してくることが考えられる。その特色は金融政策よりも金融システム監督に色濃く出てくる可能性が高そうだ。

イエレン議長は緩和政策の継続を示唆

金融緩和政策は金利の低位安定により経済を刺激する効果を持つ。一方で緩和政策の継続は株価や住宅価格上昇によるバブルをもたらしうる、また低金利が継続すると投資家は少しでもリターンのよいリスク資産への投資を拡大して過度なリスクテイクに走る可能性がある。金融緩和政策がもたらすこうしたジレンマにつき、イエレン議長は議長なりの明確な回答を示した。

7月2日、イエレンFRB議長は「金融政策と金融安定化」と題する講演で、金融政策とマクロプルデンシャル政策(金融システム全体に対する監督政策)との関係を論じた。そこで議長は、金融政策は雇用最大化・物価安定という目的にのみ資するべきであって、金融緩和政策から生じうる過度なリスクテイクによる金融システムの安定に関わるリスクは金融政策とは別のマクロプルデンシャル政策により対応するべきとしている。言い換えれば、雇用最大化・物価安定の観点から緩和政策が必要と判断される場合には、株価・住宅価格上昇などのバブル懸念を理由に緩和政策を停止すべきではないと明言した点で興味深い。

イエレン議長はまず「金融政策は金融安定化ツールとしては重大な制約に面している」「金利調節を通じて金融安定を推進するやり方は、物価と雇用のボラティリティ上昇をもたらす」と述べて、金融安定のツールとして金融政策を用いることに否定的な見解をしめした。一方で「私も低金利が潜在的に、金融市場参加者が利回りを追求しリスクをとるインセンティブ高めることに意を用いている」として「金融安定・物価安定・雇用の関係を論じる際には、議論はしばしばこれらの目標の間の矛盾にフォーカスする」という課題は認識している。そして「金融政策はリスクテイクに大きな影響力をもつ」という実態も認めている。しかし結論としては「(金融緩和政策が過度なリスクテイクをもたらして金融システムの脆弱化を招く)可能性は、金融政策が一義的には物価安定と雇用最大化にフォーカスする必要性を排除するものではない」と述べた。

バブル懸念にはマクロプルーデンスの方が有効

2000年代により強い金融引き締め策をとっていれば住宅バブル崩壊は防止できたとの論調がある。イエレン議長はこれも否定し、金融引き締め策が過度な住宅投資による住宅価格の上昇を防げたとしてもその効果は「この時期の(低い)インフレ率のモメンタムに比べて穏当なものにとどまった可能性がたか」く、「金融引き締めによる住宅バブル防止と引き換えに失業率上昇という代償が必要になったであろう」「高失業率の中の高金利は家計の債務返済能力に直接影響を与え、家計バランスシートの脆弱性を緩和する効果は穏当なものにすぎなかったであろう」としている。2000年代前半に緩和政策を継続した当時のグリーンスパン議長の政策を、住宅バブルの根源とする見方がリーマンショック後に広がった時期があった。しかしイエレン議長の見方では、住宅バブルとその崩壊は低金利政策のせいではなく、銀行監督等の欠如にあったということになる。

これらを総括して議長は「私は現在、金融安定への懸念に対応するために金融政策を物価安定と雇用最大化の獲得という一義的な目的から乖離させる必要はないと見る」「つまり、私は金融システムにおけるリスクテイクの高まりとこうした懸念の加速と広がりは、より健全なマクロプルデンシャルアプローチの必要性につながると見る」と結論づけている。

要約すればイエレン議長は、インフレ率が低く失業率が高い間は緩和的な金融政策を続けるべきであって、これに伴うバブルや過度なリスクテイクに対しては金融引き締めではなく金融監督で対応するべきと述べているのである。金融緩和策による景気刺激と、これに伴うバブルのリスクのバランスをどう考えるかは金融政策における難問の一つである。この難問に対してイエレン議長は議長なりの極めて明確な回答を示したといえる。

イエレン議長発言は議長のリベラル哲学の反映

市場はこの議長発言を、金融緩和政策の長期化というハト派的発言、または早期利上げ期待に対するけん制と受け止めた模様である。2日のイエレン議長発言後にNYダウは一時史上初の17000ドル台に上昇、10年物米国債利回りは2.6%台から2.5%台に弱含んだ。

しかし、イエレン議長発言は単に短期的な市場との対話というよりも、リベラル派のイエレン議長が就任後自己の哲学をほぼ初めて明らかに開陳したものと見る方が妥当であろう。イエレン議長は就任時に、バーナンキ前FRB議長の例に倣い金融政策の「継続性」を強調した。ここでいう継続性とは、退任前のバーナンキ議長のQE縮小政策のことを指すと考えられる。自らハト派をもって任ずるイエレン議長の就任で、市場が金融政策の転換期待から混乱することをあらかじめ防止するこの表明は、市場安定の観点から極めて妥当といえる。

ただ、本来的にリベラルなイエレン議長が前任者(バーナンキ議長は共和党の大統領に指名された議長で、民主党の大統領に指名されたイエレン議長とは立場も異なる)の政策をそのまま引き継ぐだけとは考えにくく、どこかの時点でイエレン色を徐々に前面に押し出すことは容易に想像できたことである。金融政策の目的を物価安定と雇用最大化に絞り、言い換えれば低金利によるリスクテイクは容認しつつ、過度なリスクテイクによる金融システム不安定化への懸念には銀行監督等強化で対応するという方法は、いわば市民に優しく銀行に厳しい政策である。イエレン議長のリベラルな面が今回の発言の根底にある哲学だといえる。

2000年代前半に緩和政策を継続したグリーンスパン議長は緩和政策による資産価格の上昇をむしろ歓迎していたふしがあり、その意味では金融政策がリスクテイクに大きな影響を及ぼすことを強く認識したうえで緩和政策を継続したといえる。一方イエレン議長が過度なリスクテイク防止に対する金融政策の効果は限定的と認識していることは、本来これもイエレン議長と対局の立ち位置にあるグリーンスパン議長の金融政策を決して擁護しているものではなく、むしろこれとは真逆の考え方だといえよう。なお、過度なリスクテイクの防止を市場原理によらず監督によって未然防止することの実効性につき筆者個人はどちらかといえば懐疑的と言わざるを得ない。しかし、2日の議長発言は銀行監督等の更なる強化の可能性を示唆するものである。議長のリベラルな特色は金融政策というよりむしろ銀行監督の強化という形で発現してくる可能性が高そうだ。

なお、今回のイエレン議長の発言は、それが単なる市場との対話というよりも金融政策と金融安定化政策についての一般論としての議長の考えを示したものという意味で、筆者個人の金融政策予想に影響を与えるものではない。年内にFRBは資産購入停止を決定し、2015年半ばに利上げを開始するとの個人予想を維持する。
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