FC2ブログ

<経済レポート>出口の扉は速やかに~6月FOMC議事要旨

  • カテゴリ:未分類
  • コメント:2件
  • トラックバック:0件
6月FOMC議事要旨からは、いわゆる出口戦略に関する委員の議論の状況が読み取れる。バーナンキ議長の時代に比べ、イエレン議長のFOMCでは、出口戦略の実施において市場への影響を最小限にとどめることへの配慮がうかがえる。また政策手段としてFF金利誘導目標を必ずしも前提としないなど、実効性重視の考え方も見て取れる。

FOMCは「金融正常化の政策手段」を検討中

6月時点のFOMC委員による四半期経済予測によれば、2015年中の金融引締めを予測する委員が16人中12人で、2015年末のFF金利の中央予測値は1.0%となっている。FOMC内ではほぼ来年の利上げ開始がコンセンサスとなっているといえる。筆者個人は、今年中にFOMCが資産購入の停止を決定し2015年半ばに利上げを開始、年末のFF金利誘導目標は1.25%にまで引き上げられると予想している。なお、9日に公表された6月17-18日定例FOMCの議事要旨によれば「経済が委員会の期待通りに進捗して今後の各会合で資産購入ペースを縮小することを正当化するならば、最後の縮小は10月会合後に起きる」としている。これまでFOMCは資産購入のペースを会合毎に100億ドルずつ縮小し現在では毎月350億ドルだが、今後7月、9月の定例会合で100億ドルずつの縮小を決定、10月定例会合で最後の150億ドルを停止することを決定する方向である。

一方で、長期間の量的緩和により銀行間市場は大幅な資金余剰状態にある。6月末現在の米国のマネタリーベースは約3.9兆ドルで、リーマンショックを機にFRBが大量資金供給を開始する以前の水準の約5倍に達している([第1図])。マネタリーベースの内訳をみると、所要準備預金残高は約89百万ドルにすぎず、約2.6兆ドルの超過準備残高、約1.3兆ドルの流通貨幣がマネタリーベースの太宗を占めている。ゼロ金利政策開始前のFRBの金融政策はオーバーナイト物FF金利を操作目標としていた。しかし超過準備残高がここまで増加した状態では、基本的にいずれの銀行も資金余剰状態にあるため、FRBがFF金利誘導目標を引き上げても実際のFF金利が目標通りに上昇しない可能性がある。そこでFRBとしては、FF金利誘導目標引き上げに加え、FF金利を目標に誘導するための手段を講じる必要が出てくる。

FOMCでは4月定例会合より、「金融政策正常化」と題するセッションを設け、金融政策正常化に向けた政策手段の検討を継続している。本レポートでは、4月-6月定例会合議事要旨及び6月定例会合後のイエレンFRB議長の記者会見内容から、現在のFOMCにおける出口戦略の検討状況を整理する。金融正常化に向けた出口戦略については、バーナンキ議長の時代2011年6月FOMC定例会合議事録において「出口戦略諸原則」が示されている(6月29日付当レポート参照)。しかしイエレン議長は必ずしもこの「諸原則」に縛られることなく、新たな金融政策パッケージを策定して今年の後半に公表すると6月定例会合後の記者会見で述べている。

[第1図]
20140713図1

超過準備預金への付利金利引き上げが利上げに中心的な役割

4月、6月のFOMC議事要旨によれば、現在金融政策正常化のためのツール(政策手段)として[第1表]に示したものが俎上に乗っている。これらは、2011年の「諸原則」に示された手段を参考にはしているものの、その内容は2011年の諸原則とは異なるものになりそうだ。2011年「諸原則」では、①保有資産の再投資停止②フォワードガイダンス改訂と準備預金吸収操作③FF金利誘導目標引き上げ④住宅ローン担保証券売却、という順序を定めていた。しかし6月FOMC議事要旨によれば、イエレン議長のFOMCでは超過準備への付利金利調整とオーバーナイトリバースレポ(ON RRP)を政策手段の中心にする可能性が高そうだ。さらにFOMCはFF金利計算方式の変更をも検討している。また住宅ローン担保証券売却についてはこれを実施しない可能性が高いことを6月の記者会見で表明している。以下ではそれぞれの政策手段の沿革と4月、6月のFOMCでの議論の状況を見てみる。

FRBによる準備預金への付利は、2008年のリーマンショックを受けて同年10月に成立した金融安定化法Emergency Economic Stabilization Act of 2008成立で可能となった。当初は、所要準備に対する付利は準備預金積み期間の平均FF金利誘導目標マイナス10bps、超過準備に対する付利金利は積み期間の最低FF金利誘導目標マイナス75bpsとされ、2008年10月より実施された(当時のFF金利誘導目標は1.5%)。その後FF金利引き下げに伴いこのこれらの幅は改訂されたのち、2008年12月にFF金利誘導目標の0-0.25%への引き下げとともに、所要準備、超過準備ともに付利金利は0.25%とされ現在に至っている([第2表])。

一般に超過準備預金への付利金利は銀行間金利のフロアを設定する機能がある。量的緩和で超過準備預金残高が大量に存在する状況では、民間銀行の準備預金調達ニーズは低く、中央銀行が政策金利の誘導目標をアナウンスしても実際の銀行間金利は誘導目標より低くなりやすい。しかし、超過準備預金に金利付利すれば、資金の出し手は市中金利が超過準備預金金利にまで下がったところで資金を市中に放出するインセンティブを失い、金利はそれ以上に下がらない。民間銀行は中央銀行より信用度が低いため、中銀預金への付利金利より低い金利で民間銀行に対して資金を放出することは不合理だからである。超過準備預金が大量に存在する状態でも、超過準備預金への付利金利を引き上げることで、実際のFF金利を誘導目標に合わせて引き上げることが容易になるわけだ。6月FOMC議事要旨によれば「ほとんどの参加者は超過準備付利金利の調整が金融政策正常化のプロセスにおいて中心的な役割を果たすことで合意した」とされている。

[第1表]
20140713表1

[第2表]
20140713表2

リバースレポとターム物預金ファシリティによる資金吸収:FF金利算出方法変更も

オーバーナイトリバースレポ(ON RRP)は、FRBが資金吸収を行う公開市場操作である。ON RRPで資金を市場から吸収することによりマネタリーベースを縮小することで、FF金利を操作目標とする金融政策がよりよく実施されることになる、また、Freddie MacやFannie Maeなどの住宅公社はFRBに中銀口座を保有しているものの、準備預金を積む義務がなくまた預金への付利もされない。住宅公社はそのため超過準備預金付利金利を下回る金利で資金を出すことがあり、実際には上記のように超過準備預金付利金利は市中金利のフロアにならない。そこで、住宅公社も応札できるオーバーナイトリバースレポを実施することで、その付利金利を市中オーバーナイト金利のフロアとすることができる。

しかし、「何人かの参加者は、委員会は必要に応じ他の政策手段の実施も準備するべき」として、ターム物預金やターム物リバースレポを例として挙げている。ターム物預金ファシリティ(TDF)は、4月FOMCで既に検討開始されていた手段で、リバースレポ同様に市場からの資金吸収によってFF金利の誘導を容易にする役割を果たしうる。TDFの場合、期間がターム物であることにより、オーバーナイトのリバースレポによる資金吸収よりも効果は大きいといえる。TDFは既に2010年5月にFRBに承認され、その後少額の試験的操作が実施されている。直近では期間1週間、金利0.30%レベルで実施されている。

FF金利誘導目標について2011年の「諸原則」では、「FF金利誘導目標引き上げ後はこれを一義的な金融調節手段とする」と定められていた。しかし現在のFOMCは必ずしもこれを所与としていない模様だ。6月のFOMC議事録によれば「ほとんどの参加者はFF金利が引き続き委員会の金融調節枠組みと正常化におけるコミュニケーションで役割を果たすべき」と考え、そのうちの多くは「誘導目標金利レンジを公表するべきと述べ」た。しかしながら「何人かの参加者は、委員会の手段の市場金利への効果の程度が不確実であることから、正常化の期間においては管理可能な金利administrative rates にフォーカスするべき」と述べている。さらに、「参加者は、より健全なオーバーナイト銀行調達金利を取得しベンチマーク金利の基準を開発する国際的な動きの教訓を適用するべく、実効FF金利の産出方式変更の可能性を検討した」とされている。なお、6月FOMCでは保有資産の再投資についても議論がなされ「多数の参加者は、再投資の停止は利上げと同時かその後が最善だと述べ、そのうちのほとんどは利上げの後が好ましい」と述べている。しかしながら「いくらかの参加者」は2011年の諸原則に則り利上げ前に再投資を停止するべきとしている。

6月FOMC議事録では「総じて参加者は、公共とのコミュニケーションを促進し金融政策の信頼を高める簡潔で明瞭な正常化へのアプローチを選好すると表明」し「委員会は今年の後半にその計画を策定して公表するのが有効」とされた。イエレン議長が6月記者会見で述べたように今年後半に正常化に関する計画をFOMCが公表する意向が議事録からも読み取れる。

出口戦略は一度で速やかに実施する方向

現在のFOMCの考える正常化へのプロセスは2011年のFOMCの想定とはかなり異なるものになりそうだ。主な相違点としてはまず、現在のFOMCは長期国債や住宅ローン担保証券などの資産の売却には消極的であることがあげられる。2011年の「諸原則」には「準備預金吸収のための一時的市場操作」の実施と「住宅ローン担保証券の売却」が謳われていた。前者の「準備預金吸収のための市場操作」では潜在的には米国債の買い切りオペも想定されていたと考えられる。しかし現在のFOMCでは買い切りオペは議論の俎上にのっておらず、住宅ローン担保証券の売却もイエレン議長が記者会見で否定的なスタンスを示している。これは長期金利上昇という市場へのインパクト、特に住宅ローン担保証券売却による住宅市場への悪影響に最大限配慮する考え方が背景にあると考えられる。

次に、政策手段発動の順序として、2011年のFOMCがまず保有資産再投資の停止を最初に実施するとしていたのに対し、現在のFOMCはこれをFF金利誘導目標引き上げと同時かむしろその後にすることを選好していることである。保有資産の再投資はFRBによる量的緩和手段の中では最もマイナーな手段に相当するものであり、こうした手段をまず停止することで将来の利上げに向けた地ならしをするという2011年FOMCの考え方は十分に妥当性があり、かつ将来の金融政策への道筋を明示する効果もある。しかし現在のFOMCは、再投資の早期停止が「委員会が期待よりも速く金融引締めを行うと見られる」リスクや「住宅ローン担保証券市場への予期せぬ悪影響」に配慮する意見が多数の模様である。

これらの状況証拠からは、現在のFOMCが、住宅ローンなど実体経済への影響に最大限に配慮し、また利上げに対する過大な期待を市場に抱かせないことを志向していると考えられる。技術的にはこうした懸念を排除するプロセスとして、FF金利誘導目標引き上げ、超過準備預金付利金利引き上げ、ON RRPの本格化を同時に決定し、その直後に保有資産再投資の停止を決定することが最もありそうなやり方である。現在の情報からはいまだFOMCの金融政策正常化プロセスを予想することは困難ではあるが、現在のFOMCが経済見通しの悪化に備え出口戦略実行へのコミットを可能な限り保留し、かつ実施の際は速やかに出口を開けることを選好していることには留意しておきたい。

(訂正)「超過準備預金への付利金利引き上げが利上げに中心的な役割」の第3パラグラフ、および「リバースレポとターム物預金ファシリティによる資金吸収:FF金利算出方法変更も」の第1パラグラフの記述を、8月9日に訂正いたしました。
スポンサーサイト



コメント

トラックバック