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<経済レポート>雇用と賃金で成長は持続できる~米国個人消費

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米国の小売売上が減速しているが、これは一時的または循環的要因とみたい。個人所得の伸びなどのファンダメンタルズは今後も米国個人消費が名目ベースで4%、実質ベースで2~3%成長が可能なことを示唆している。一方で、金利・住宅価格・金利といった要因の消費への寄与度は低下傾向にあり、資産価格や金利上昇による懸念はさほどないといえそうだ。

小売売上の減速は一時要因と見る

13日に公表された米7月小売売上高はやや失望感あるものだった。小売売上全体の伸びは前月比横ばいにとどまり、4月以降4ヶ月連続の減速となった。しかし、米国個人消費は年初に寒波の影響で大幅に落ち込んだのち、2月、3月に積み上がり需要などで大幅反動増加している。この積み上がり需要要因が4~6月に剥落したものと考えれば、7月の結果は表面の数字ほどに悲観的なものではない。天候要因などの一時要因をならすため、小売売上高の前年同月比の伸びとその12ヶ月移動平均をとってみる。すると、7月小売売上高の前年比の伸びは+3.7%、前年比の伸びの12ヶ月移動平均は+3.6%であり、ちょうどサイクルがトレンドに回帰したところである([第1図])。ここからは、4月以降の小売売上の減速は寒波による落ち込みとその反動増という一時要因の剥落にすぎないとの憶測が可能だ。

一方で、小売売上高の伸びのトレンドを示す12ヶ月移動平均線は中期的に下降している。しかし、インフレ率を1.6%とするとインフレ調整後の実質ベース小売売上は前年比で約2%の伸びがトレンドであることになり、これは米国の潜在成長率(米議会予算局推計では2014年時点で1.6~1.7%)を上回る消費拡大ペースが維持できていることを意味する。実質ベースで潜在成長率を上回る成長が持続できれば、米国経済はマイナスの需給ギャップ縮小によりデフレを回避することができる。むしろ今後この下降トレンドが実質ベースで潜在成長率を下回らないことが、今後の米国経済の持続性とマイナス需給ギャップ縮小のポイントになる。なお、昨年2013年の6月と7月は、小売売上が前年比で急増した月であり、今年の6,7月の前年比の伸び率は相対的に弱めに出やすいことにも留意が必要であろう。

小売業の業界団体は今後の売上見通しに楽観的だ。全米小売業協会(NRF)は、自動車・ガソリンスタンド・レストランを除くベースの小売売上高が6、7月合計でおおむね前年比4%の伸びを示していることで「2014年通年の売上が少なくとも前年比+3.9%の伸びを示すという期待に依然沿っている」と述べている(8月13日付NRFホームページ)。また一時的な売上減速については「小売業者は高額品とその他の必需品の間の消費のばらつきを認識している」「家計は依然として必需品と嗜好品の購入の間で判断に迷っている」「一部の消費者が買い物をするために借入れをすることに慎重であることは明らか」として、消費者心理がまだ慎重または迷いのある状態であることを観察している。実際に、消費者信用残高のうち自動車ローンなどノンリボルビング信用の残高の伸び率は高水準にあるが、クレジットカードなどのリボルビング信用の残高は伸び悩んでいる。消費者は自動車など高額商品購入の場合を除き、カード借入などには依然慎重だといえる([第2図])。

[第1図]
20140815図1
[第2図]
20140815図2

個人所得は2%台の実質成長を可能にする

一方でNRFは「所得増加、雇用、消費者信頼感など消費者に関するファンダメンタルズは相対的に頑健であり、経済と消費者は良い方向に向かっている」と判断している。そこで、個人消費のファンダメンタルズである個人所得や、その他の個人消費の決定要因が消費にどう影響を与えているかを見てみよう。まず、個人の名目可処分所得(名目個人所得から税金と社会保険料等政府宛支払を差し引いたもの)は2014年4-6月期時点で前年比+4.0%の伸びを示している。またインフレ率を差し引いた実質可処分所得も4-6月期時点で同+2.4%の伸びを示している([第3図])。つまり個人所得は、名目ベースでの消費を4%拡大させるペースで伸びていることになる。NRFが今年の小売売上高増加率として期待している3.9%はこの名目ベースの所得拡大ペースとほぼ一致している。また現在の可処分所得の伸びは、実質ベースでも2%台半ばの拡大、つまり潜在成長率を上回るペースの成長が可能な状況ということになる。

名目可処分所得の伸びをその内訳毎に示したのが[第4図]である。これによれば、可処分所得の伸びの太宗に雇用者報酬の伸びが寄与していることがわかる。政府からの移転所得は依然として個人所得の伸びを支える要因となっているものの、リーマンショック後に採用された一時的な財政政策の寄与度は逓減している。昨年12月に成立したいわゆる2013年超党派予算法において拡大失業保険給付の延長が見送られたことで、個人所得は名目GDP比0.1~0.3%押し下げられると当時見込んでいた(2013年12月15日付当レポート参照)。しかし現実には、失業者の減少により失業保険給付そのものがリーマンショック以前の水準にまで減少しており、一方でオバマケアによるメディケイド支払の増加がその減少を補って余りあるものとなっている([第5図])。また、税金による可処分所得へのマイナス効果は、2013年の給与税減税停止によるマイナス効果が今年になって剥落したことで大幅縮小している。結果、政府からの移転所得が税金によるマイナスをカバーする形で、結果可処分所得の伸びはほぼ雇用者報酬の伸びに依存している。

米労働省の雇用統計によれば、7月時点で非農業部門雇用者数は前年比+1.9%、時間当たり賃金は同+2.3%の伸びとなっている。雇用増加と賃金上昇を合わせれば個人所得は雇用者報酬のみで前年比4%強の伸びを維持できる環境にある。今後雇用はほぼ前年比+2.0%前後の伸びが期待でき、また時間当たり賃金は失業率低下に遅行して今後伸びが加速すると見込まれることから、名目個人所得は今後もおおむね4%の伸び、インフレ率を差し引いても2%台半ばの伸びが持続的に期待できる。また、個人の限界消費性向(筆者試算)は4-6月期時点で0.94とほぼ1に近い高水準にあり、所得の増加率がほぼそのまま消費の増加率になることが期待できる状況である([第6図])。

[第3図]
20140815図3
[第4図]
20140815図4
[第5図]
20140815図5
[第6図]
20140815図6

住宅価格減速、金利上昇の遅れで資産効果は逓減中

個人消費の決定要因は上記の所得要因のほか、株価や住宅価格などの資産価格要因、更には金利や物価要因がある。以下ではこれらの決定要因を説明変数とする実質個人消費の回帰分析を行い、各決定要因が今後の消費に与える影響を占うこととする。用いる説明変数(雇用・賃金・物価・金利・株価・住宅価格)と回帰式は2013年12月31日付当レポートで用いたものと同じで、各データを2014年4-6月期時点までアップデートし、推計期間は1992年7-9月期から2014年4-6月期までの88四半期とした。

今回の回帰分析による実質個人消費の各決定要因に対する弾性値は[第1表]の通りで、昨年12月時点での推計結果と大きな変化はない。各決定要因の実質個人消費への寄与度を[第7図]で見ると、雇用・賃金が最も大きな要因であることは不変である。昨年12月時点での試算との比較では、金利上昇ペースが当時の予想よりも遅いことから、金利上昇による消費へのマイナス効果はより限定的だったことがわかる。また史上最高値を更新した株価上昇が個人消費に与えるプラス効果はその弾性値の低さから限定的であることがわかる。

一方で、住宅価格の上昇加速が昨年12月時点の前提よりも減速しており、これに合わせて実質個人消費の伸びも減速している。住宅市場は一時販売在庫不足により価格上昇が加速していたが、その後供給の好転により価格上昇ペースがいったん落ち着いている状態にある。中古住宅市場では、今年1月に在庫期間が4.4ヶ月に縮小したが、その後販売減少と在庫増により6月時点で在庫期間は5.5ヶ月にまで戻している(7月26日付<経済指標コメント>参照)。これに伴い住宅価格は昨年後半に一時前年比13%台の上昇を見せたが、その後やや上昇ペースが減速して5月時点で前年比+9.4%の伸びになっている(S&Pケースシラー住宅価格指数10都市、[第8図])。

[第1表]
20140815表1
[第7図]
20140815図7

[第8図]
20140815図8

住宅価格減速でも雇用・賃金で成長は持続可能と見る

今後、2014年7-9月期、10-12月期の個人消費の伸びを占うために、株価・金利・住宅価格に一定の前提を置いて試算したのが[第6図]の「試算」の部分である。前提として、雇用は今後前年比+2%の増加、時間当たり賃金は同+2.5%の伸びが続くとした。またNYダウは2014年末に18000ドルに上昇、30年物モーゲージ金利は現在の4%台前半から年末に5%にまで上昇、住宅価格は前年比+5%の上昇を継続するとした。結果、実質個人消費は2014年4-6月期よりもやや加速して前年比3%前後の伸びが可能であるものの、住宅価格の伸びが抑制されることと金利上昇によるマイナス効果で、その加速度は限定的であるとの結果になった。

米国の住宅価格は昨年一時在庫不足による需給タイト化により前年比10%を超える上昇を見せていたが、これはやや行き過ぎ間感があったと見ている。中古住宅市場でいえば本来6ヶ月程度の在庫期間が標準とされており、住宅価格はこれに相当する5~6%の上昇ペースが最も健全ということができる。6月時点で中古住宅中央販売価格の伸びが前年比+4.3%にまで低下していることからは、今後年末にかけての住宅価格上昇率は上記前提のように5%程度を見込んでおくのが妥当であろう。もっとも、住宅価格の個人消費への波及経路は現状では明らかではない。住宅ローン残高は依然として低迷しており、ローン借入資金の一部を消費に回すという消費者行動はまだ見られないからである。FRBの資金循環統計によれば、2014年1-3月期時点の家計住宅ローン借入残高は2四半期連続減少となる9.3兆ドルで、住宅バブル末期2008年1-3月期のピーク10.7兆ドルからの減少基調は不変である。また、住宅を担保に消費資金を借り入れるホームエクイティ・ローン残高も、6月時点で4649億ドルと、2009年のピーク6111億ドルから減少を続けている。住宅価格上昇が消費に与えるプラス効果は住宅ローン延滞回避といった受動的効果または心理効果にとどまっているといえる。

以上より、個人消費が実質ベースで今後2%半ばから3%近い成長を年末にかけて続けることがファンダメンタルズ的には可能である。また、その成長は資産効果よりも所得効果による部分が大きいといえる。今年に入って見られる小売売上高の変動は主に循環要因かまたは一時要因によるものであって、中期的には個人消費の失速の可能性は低いと見たい。従って、今後のGDP統計上の実質個人消費は7-9月期、10-12月期いずれも前期比年率約2%の拡大を持続するとの個人予想を維持する。この個人予想はやや保守的なもので、上記の通り個人消費が2%台半ばの成長を実現する上方リスクを見込んでおきたい。一方で、本予想に対する下方のリスク要因は、地政学リスクや株価変動が消費者センチメントや経済ファンダメンタルズ自体を下振れさせることである。


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