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<経済レポート> 時節到来は来年半ば~7月FOMC議事要旨

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7月FOMC議事要旨からは、失業率低下とインフレ率上昇のいずれもがFOMCの予想よりもペースが速く、利上げ時期前倒しの可能性も議論されていたことが判明した。これは来年半ばの利上げ開始との個人予想を支持する内容である。一方で、労働市場ののりしろslackについてはまだハト派的見方の意見の方が多いと見られ、これは同予想にとってのリスク要因となりうる。

7月声明文では労働市場とインフレへの見方が前進

20日に公表された7月29~30日のFOMC定例会合議事要旨からは、失業率低下やインフレ率上昇に対するFOMC内の議論、およびいわゆる出口戦略についての議論が読み取れる。去る7月30日に公表されたFOMC声明文では、3つの点に注目が集まった。まず労働市場につき「失業率は更に低下しており労働市場条件は改善した」と判断を引上げながらも「労働資源には著しい余剰underutilizationが残っている」との新たな文言が挿入されたこと。次にインフレにつき「委員会は、、インフレ率が2%を継続的に下回って推移する可能性はいくぶん後退した」との公式判断を示したこと。さらにイエレンFRB議長下のFOMCで初めて決定につき反対票が投じられたことである。

失業率低下による労働市場改善はタカ派方向の判断だが、同時にこれまでになかった「労働市場の余剰」が声明文であえて触れられたことは、表面上の失業率低下よりも実際の労働市場ののりしろslackは大きいと主張するハト派(イエレン議長もこれに含まれる)の強い意向の反映と考えられる。労働市場の改善を認めるかわりに、労働市場の余剰があることを明確にすることで全体のバランスを維持したいとする意向と考えられる。ちなみに、7月30日時点で判明していた失業率は6月分の6.1%で、米議会予算局(CBO)が推計する自然失業率(5.8~5.9%)にほぼ近いところまで低下していた。一方、6月時点のFOMC委員経済予測では、長期的な失業率予想(委員が均衡失業率と見る水準)の中心傾向は5.2~5.5%であり、CBO推計よりもやや低い。FOMC委員予測との比較ではまだ現在の労働市場には失業率で0.6~0.9%程度ののりしろslackがあることになる。

インフレ率はFOMC時点で個人消費支出価格指数(PCEデフレーター)が前年比+1.8%と、FOMCの目標とする2%にほぼ接近していた。これらの状況に対して低インフレ率の継続するリスクが後退したと判断したのは自然であるといえる。また、プロッサー総裁は「資産購入プログラム終了後相当の期間」現在のFF金利誘導目標レンジを維持することが適切とのフォワードガイダンス文言に「こうした文言は時間に依存し、委員会の目標にむかっての相当な経済の進捗を反映していない」として反対した。以下ではこれらのポイントおよびいわゆる出口戦略についての議論の状況につき議事要旨を見ることにする。

労働市場ののりしろについての見方は分かれている

議事要旨によれば、労働市場の大幅な改善に参加者が総じて合意している。労働市場条件の「改善は、雇用者数増加の加速と失業率全体の目に見える低下のみならず、長期失業者やフルタイム雇用を志向するパートタイマーといったより広義の労働余剰の指標にも反映されている」として、イエレン議長らハト派が重視する労働力ののりしろに関する指標の改善が確認されている。また「2、3人の参加者は長期失業から雇用への移行率が高まった」ことを指摘した。さらに「いくらかの参加者は、求人、採用計画の増加と離職率の上昇を含む労働移動の増加というよい兆候を指摘」している。そして「参加者は総じて、最近の労働市場条件の改善と過去1年の累積的進捗は、ともに期待していたよりも大きく、労働市場条件は目に見えて長期的に正常と見られるものに近づいたことに同意した」とされた。

しかし一方で、労働市場ののりしろslackの水準とその計測方法については意見が分かれている。「何人かの参加者は失業率が労働市場状況についての信頼のおける指標である」と述べたのに対し、「多くの参加者はしかし、現在の労働市場条件と、彼らの労働市場の使用度についての正常な水準の評価と整合的な労働条件とのギャップは、失業率と長期的に正常な失業率水準の差よりも大きい」と述べている。つまりハト派と見られる多くの参加者が、自身の推計による労働市場ののりしろが、現状の失業率水準(6.1%)と長期均衡失業率水準(FOMC委員予測の中央値は5.2~5.5%)の差分(0.6~0.9%)よりも大きいと考えていることである。しかしながら一方で、「数人の参加者は最近の失業率低下は長期失業者の雇用への吸収とパートタイマーの減少に関係しており、のりしろは縮小しつつありかつ雇用機会の拡大とともに更に縮小するだろう」と述べ、タカ派と見られる参加者は、労働市場ののりしろは適切に縮小しているとの考えを示した。

筆者個人は、長期失業者は循環要因よりも構造要因の方が大きく、したがって労働市場ののりしろは表面の失業率水準よりも実際には縮小していると考えている(1月13日付及び6月18日付当レポート参照)。長期失業者数の失業者に占める割合は議事要旨にある通り低下している([第1図])。もっとも水準的には金融危機以前に比べまだ高いが、これは雇用ミスマッチなど主に構造要因と個人的には考えている。例えばその証跡は、欠員率(=(未充足求人数)/(雇用者数+求人数)が議事録の通り金融危機直前に近い水準にまで回復しているにも関わらず、失業率は同時期よりも高止まりしている状況(UV曲線の右方シフト)からも推測できる([第2図])。また就業意欲のある非労働力人口の増加ペースが、非労働力人口全体の増加ペースに概ね沿った伸びに留まっている([第3図])ことも一つの状況証拠である。議事要旨全体のトーンからは、労働市場ののりしろが循環要因かつまだ大きいと考えるハト派委員が人数的には勝っているものの、これに異を唱えるタカ派の発言も確実に増加していることが推測できる。

[第1図]
20140824図1
[第2図]
20140824図2
[第3図]
20140824図3

インフレ率は上昇を予想、利上げ時期前倒しの可能性も議論された

次に、インフレ率についてもその継続上昇を予想する委員がほとんどになっている。議事要旨によれば「ほとんどの参加者はインフレ率が委員会の2%目標に向かって上昇し続けると予想」し「ほとんどの参加者は今やインフレ率の下方リスクは低減したと判断」した。また「何人かの参加者は最近の労働市場のタイト化はインフレ率とインフレ期待の上方リスクを高めた」と発言している。「何人かの参加者はインフレ率が委員会の2%目標を継続的に下回る可能性が高い」と見ているものの、その数は少数派である。筆者個人は、現在上昇中のインフレ率は短期的にはややオーバーシュートの可能性が高く、年後半にかけて一旦緩むものの、その後堅調に推移して年末のPCEデフレーターは前年比+1.7%レベルに落ち着くと見ている。この見方はおそらくFOMC委員の多数派の見方と整合的であり、かつ来年初にインフレ率が2%に近づく可能性が高いことは来年半ばの利上げ開始を正当化する材料になる。

更に、金融政策について利上げ開始時期が従前の予想より早まる可能性を指摘する委員が出てきている。議事要旨によれば「多数の参加者は、(失業率とインフレ率の)委員会の目標への収斂が予想よりも早く起きるならば、金融緩和政策の解除を予想よりも早期に実施することが適切になるかもしれない」と述べている。6月のFOMC委員経済予測では、2015年末のFF金利誘導目標予想の中央値は1.00~1.25%で、1回あたり0.25%の利上げとして逆算するとFOMC委員は利上げ開始を8月または9月の委員会と見ていたことになる。

利上げ時期について筆者個人は、2015年半ば(来年6月または7月定例会合)を予想している。たとえば、イエレン議長が採用しているテイラー・ルール注1)をもとにした筆者試算によれば、適正な政策金利は2015年4-6月期が0.4%、7-9月期が0.7%、10-12月期が0.9%との結果になる([第4図])。ここからは適切な利上げ開始は来年6月または7月FOMCになる計算になる。7月FOMC議事要旨における利上げ前倒しの可能性はこの予想を支持する材料である。なお、「メンバーは失業率のみに言及していた最近の労働市場条件に関する(声明文の)記述を変更し、労働資源の余剰への評価についての記述にすることが適切と判断した」とされている。労働市場の改善を明示するとともに労働資源の余剰に関する記述を新たに声明文に加えた経緯はこの箇所であるが、その状況は明確ではない。この新文言が投票メンバー総体としての判断であることからは、必ずしもハト派だけの意向の反映とは言えないようでもある。FOMC委員やFRB幹部の中では依然ハト派がやや多数派であることは、利上げ時期が現実には後倒しになるリスクも孕んでいることには留意しておいてよいだろう。

[第4図]
20140824図4

金融正常化はFF金利誘導目標と超過準備預金付利金利がメイン

いわゆる出口戦略についても7月会合で更に議論がなされているが、前回6月会合の内容から大きな変化はない。7月会合では「ほとんどすべての参加者は、FF金利を主要な政策金利とすることに合意し、利上げ当初とその後しばらくの間は25bpのレンジを誘導目標とすることを支持」している。また「参加者は超過準備預金付利金利(IOER)の調整がFF金利を誘導目標に引上げる一義的な手段であることに合意」し、また「ほとんどの参加者は、限定的な規模のオーバーナイトリバースレポ(ON RRP)を一時的に使用することが市場金利に更に強固なフロアを設けることを助けるだろう」と考えている。また、FRBのバランスシートの調整開始の時期については「ほとんどの参加者が再投資の縮小または終了を最初のFF金利誘導目標引き上げの幾分あとに実施する」ことを支持、また「ほとんどの参加者は委員会が住宅ローン担保証券(MBS)の売却を実施しない」と考えている。これらは6月会合での議論とほぼ同内容である。

7月会合議事要旨から読み取れる新たな議論は「ほとんどの参加者は、少なくとも当初においては、IOERがFF金利誘導目標レンジの上限に設定され、ON RRP金利がレンジの下限に設定される」と考えているとされていることである。ここで、IOERやON RRP金利とFF金利との関係を再整理してみたい。一般的にIOERは量的緩和期に市場金利のフロア(下限)を設定する機能をもつ。量的緩和で超過準備預金残高が存在する状況では、民間銀行の準備預金調達ニーズは低く、中央銀行が政策金利の誘導目標をアナウンスしても実際の銀行間金利は誘導目標より低くなりやすい。しかし、超過準備預金に金利付利すれば、資金の出し手は市中金利が超過準備預金金利にまで下がったところで資金を市中に放出するインセンティブを失い、金利はそれ以上に下がらない。結果IOERは市場金利の下限となる。また、住宅公社など準備預金付利のされない参加者にとっては同様にON RRPが資金放出金利の下限となる。一方で一般に、ディスカウントウインドウなどの中銀貸出金利は、市中金利の上限(キャップ)の機能を果たす。資金の取り手は市中金利が中銀貸出金利まで上昇したところでそれ以上の金利で資金調達するインセンティブを失い、中銀貸出を利用すると(理論的には)考えられるからである。これらにより政策金利を一定のレンジに誘導することができる(いわゆるコリドー効果)。

しかるにFOMC委員のほとんどは、IOERが政策金利レンジのフロアでなくキャップになると考えている。このメカニズムの詳細は議事要旨からは明らかではないが、おそらく次のような考えによると思われる。量的緩和により大量の超過準備が存在する状況では、基本的に市中銀行は必要な資金を中銀オペで調達できるため、市場から資金調達をする必要は少ない。市場資金調達のインセンティブがあるのは市場調達金利を上回るIOERでこれを運用できる場合である。従って、市中金利がIOERを上回った時点で資金の取り手は調達インセンティブを失い結果IOERが市中金利のキャップとなる。これは現在のように量的緩和が極めて拡大した状況で起きる例外的なメカニズムといえる。量的緩和縮小がある程度進めば再び上記のようにIOERは市中金利のフロアになる機能を果たし始めると考えられる。IOERを誘導目標レンジの上限とすることが「少なくとも当初においては」とされているのはかかる推移を想定したものと考えられる。

以上、7月FOMC議事要旨の内容は、来年6月または7月のFOMCでの利上げ開始予想を支持するものと見て、これまでの筆者の個人予想を維持する。なお、イエレンFRB議長は22日、ワイオミング州ジャクソンホールにおける講演で「現在のFF金利誘導目標を資産購入終了後相当の期間維持するのが適切である可能性高い」とFOMC声明文を引用して発言しつつも、新たに「労働市場改善が委員会の期待よりも速くあり続けるか、インフレ率上昇が期待より速く上昇するならば、、FF金利誘導目標引き上げは現在の委員会の期待よりも早期にまた速く起こりうる」と述べている。講演の主題である労働市場ののりしろについては依然これが見かけの失業率よりも大きいとの見方をイエレン議長は崩していないものの、FOMC内では早期利上げ論がかなり高まっていることの証跡と見たい。

注1) it=2+πt+0.5(πt-π)+1.0(yt-yt*it:適切な政策金利、πt:インフレ率実績、π:インフレ率目標、yt:GDP実績、yt:潜在GDP(Janet L. Yellen, “Perspectives on Monetary Policy”, June 6, 2012 参照)
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