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<経済レポート> 三つのトレンドライン~日本の消費税影響

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日本の消費税率引上げ前の駆け込み需要とその反動減が経済成長に対してニュートラルといえるためには、反動減後の戻りによりGDP水準がそのトレンドに回帰する必要がある。3通りのトレンドラインを想定して試算した結果、7-9月期にトレンド回帰するのに必要な7-9月期成長率は前期比年率+2.2%~+6.6%と幅のあるものとなった。客観的には7-9月期に2%強の成長でトレンド回帰は可能と見る。しかしながら一方で、当初想定していた年度ベースでの2%成長実現は下方リスクにさらされていると言わざるを得ない。

反動減でGDPは1年前の水準に戻っている

日本の4-6月期実質GDP成長率は前期比年率-6.8%と、1-3月期の同+6.1%成長による増加分以上の落ち込みとなり、見かけ上は駆け込み需要以上の需要減が起きている(8月16日付<経済指標コメント>参照)。駆け込み需要とその反動減はほぼ同額で消費税率引上げは経済成長に対してニュートラルであるとの見方からは、駆け込み需要と反動減による需要のブレは一時的なもので、いずれこのブレは解消されるはずである(2013年10月15日付当レポート参照)。

消費税率引上げによる一時的ブレが解消されたといえるためには、少なくともGDPが消費税引上げの影響を受ける以前の時期の状態に戻ることが必要である。シンプルには現在のGDPを駆け込み需要発生前の水準、たとえば前年同期と比較する方法がある。4-6月期の実質GDPの前年同期比の伸び率はちょうど0.0%であり[第1図]、過去1年間に駆け込み需要も含め押し上げられたGDPは、反動減により消費税影響のない1年前と同じ水準に着地したといえる。

しかし、現在のGDPが1年前と同じだということは、過去1年間経済が成長しなかったことを意味する。経済は常に成長を続けていくべきものであるから、前年同期比の成長率がゼロに回帰するだけでは消費税の影響が解消されたことにはならず、むしろ実態的には成長が抑制されたことになる。消費税率引上げの影響が解消されたというためには、消費税影響示現前から現在までに日本が実現するべき成長率を反映した水準にGDPが回帰することが必要である。いいかえれば、GDPの水準がその成長トレンドに回帰して初めて消費税率引上げによるブレが解消されたといえるわけだ。

[第1図]
20140831図1

最近の高成長トレンドへの回帰には7-9月期に6.6%成長が必要になる

[第2図]は、現在の安倍政権発足(2012年12月)時点を含む2012年10-12月期から直近の2014年4-6月期まで7四半期の実質GDP(対数値)を線形回帰することによりGDPのトレンドを抽出したものである。回帰式の係数0.004はこの期間のトレンド成長率が前期比+0.4%(年率換算すると+1.7%)であることを表す。ここからは、1-3月期に駆け込み需要でGDP実績がトレンドから大きく上方乖離したのち、4-6月期に大きく下方乖離していることがわかる。今後たとえば7-9月期に成長率がトレンドに回帰するためには、トレンドラインを7-9月期にまで延長した水準にまで実質GDPが増加する必要がある(図中の▲点)。

この点に実質GDPが到達するには、7-9月期に実質GDPが前期比+1.6%(前期比年率+6.6%)成長が必要になる計算になる。この回帰で得られたトレンド成長率である年率+1.7%は、消費税法改正法附則第18条において消費税率引上げに当たり「平成23年度~平成32年度の平均において実質の経済成長率で2%程度」を目指すとされていることとも概ね一致する水準である。しかしながら現実には、これまでの先行指標や一部の7月分経済指標からは、7-9月期の前期比年率+6.6%成長はかなり高いハードルと言わねばならない。

一方で日本経済は、安倍政権発足後アベノミクス第一の矢である金融緩和のアナウンスメント効果や第二の矢である財政出動により、従前に比べ成長ペースが急加速している。直近7四半期分のGDPから推計されるトレンド成長率である年率+1.7%は、一般に日本の潜在成長率とされる成長率よりもはるかに高い。より長期の緩やかな成長トレンドへの回帰(潜在GDPを長期トレンドととらえる考え方からは潜在GDPへの回帰)をもって消費税率引上げ影響によるブレが解消されたと考えることも可能である。そこで次に、成長トレンドをより長期の観測期間で抽出して同じ分析を試みる。

[第2図]
20140831図2

長期成長トレンドへの回帰なら2%台成長で可能

[第3図]は、実質GDP統計を連続性のある1994年1-3月期に遡り、2014年4-6月期までの82四半期の実質GDPをもとに線形回帰によりトレンドを抽出したもの、[第4図]はその2012年10-12月期以降の拡大図である。これによれば、日本の長期のトレンド成長率は前期比+0.2%(年率+0.8%)となる。年率+0.8%の成長率は内閣府が推計する日本の潜在成長率(内閣府推計では+0.6%)にほぼ近い。[第4図]によれば、[第1図]同様に1-3月期にGDPはトレンドから大幅上方乖離、4-6月期に下方乖離しているが、トレンド成長率が低く算出されているため、トレンド回帰への距離は[第1図]よりも短い。この回帰線を[第1図]と同様今年の7-9月期にまで延長し、そこに到達するのに必要な7-9月期成長率を計算すると、前期比+1.0%(前期比年率+4.4%)との結果になった。成長が加速した直近7四半期のトレンド回帰よりも、長期的な成長トレンドへの回帰の方が達成しやすいとの結果になる。

しかし、過去82四半期の直線回帰による成長トレンドをそのまま現在に当てはめるのにはやや無理がある。アベノミクスにより期待される成長率はそれ以前よりも高まっているし、消費率引上げの影響評価においては、消費税引上げとともに目指す2%成長率はその目途となる。過去の低成長が反映された年率+0.8%成長をトレンドとみなしてここへの回帰をもって消費税引上げの影響が解消されたと見なすのはやや甘い評価だといえよう。

そこで、長期かつ直近の変動を反映するトレンド抽出方法としてHPフィルターを用いてみる。HPフィルターはトレンドラインを曲線化することを許容しつつその変動を制約することで、長期の系列に対し直近の変化を反映したトレンドを抽出できるとされている。[第5図][第6図]は、上記と同じ過去82四半期のGDP実績をHPフィルターで平滑化してトレンドを抽出した結果である。これによれば、直近の4-6月期におけるトレンド成長率は前期比+0.3%(前期比年率+1.0%)となり、長期の直線回帰によるトレンド成長率よりはやや高めの結果になった。しかしながら、HPフィルターによる長期トレンドラインはこれまでの2つの方法に比べて低い位置にあり、4-6月期のGDP落ち込みによってもトレンドラインからの下方乖離幅がかなり小さくなっている。そのため、7-9月期のトレンドGDPへの回帰に必要な7-9月期成長率は前期比+0.6%(前期比年率+2.2%)で済むとの結果になった。前期比年率+2.2%の成長は7-9月期の成長率としては十分に達成可能なペースである。

[第3図]
20140831図3
[第4図]
20140831図4
[第5図]
20140831図5
[第6図]
20140831図6

消費税率引上げの評価は実体経済的観点で:ただし成長予想には下方リスクあり

以上3通りのトレンドGDP抽出方法とそこに回帰するのに必要な7-9月期実質GDP成長率をまとめたのが[第1表]である。短期の成長トレンドを線形回帰で抽出した①の場合が最も高い成長率を必要とし、長期の成長トレンドをHPフィルターで抽出した③の場合が最も低い成長率で済む。その中間が長期成長トレンドを線形回帰した②の場合ということになる。消費税率引上げの影響を考察するのにどの方法が最も適切か。消費税率引上げにおける「べき論」からは①である。消費税率引上げとともに目指す水準とされた実質2%の持続的成長が実現できることをもって消費税率引上げが正当化されるべきであり、従って消費税率引上げの影響はこの目標に照らして評価されるのが妥当である。更には消費税率の10%への引上げを可能にするにはこの2%成長が持続的であることの目途が立っている必要があることになる。

だが、現実的観点と実体経済の観点からは必ずしもかかる結論になるとは限らない。まず現実的観点からは、消費税率改正法では2%の持続的成長の実現は消費税率引上げの条件ではなく、この数値を目指した「総合的な施策の実施」が条件である。従って現実の消費税率の10%への引上げは7-9月期成長率が6%台を実現できなくても技術的には実施可能である。次に、実体経済の観点からは、①のように直近7四半期のGDP実績は成長率トレンドの抽出の期間としてはやや短すぎ、長期のサンプルに基づきかつ直近の変動を反映する③の方式が成長率トレンドの抽出方式としては最も妥当と考えられる。③の考え方に基づき7-9月期の成長率が+2.2%を確保できれば消費税のブレは解消された、つまり反動減が解消して成長が元のトレンドに戻ったと考えるのが最も客観的な評価といえる。4月の消費税率引上げが恒常的にGDPを押し下げる影響を及ぼしたかの判断は現在では時期尚早であり、これは7-9月期以降の経済の動向を見て判断することとしたい(なお技術的には、HPフィルターは直近のサンプルの変動の影響を受けやすく、東日本大震災による一時的なGDP落ち込みの影響を受けてトレンドが低めに出やすいと考えられることには留意はしておくべきだろう)。

なお、筆者自身は7月時点で2014年度の日本の成長率を前年度比+1.8%、つまり政府が目標とする2%成長がほぼ達成可能と個人的に予想していた(8月3日付当レポート7月20日付当レポート参照)。しかしこの予想は今や下方リスクにさらされていると言わざるを得ない。直近の経済指標によれば、7月実質家計消費支出は前月比-0.2%の減少、また7月鉱工業生産指数は+0.2%の上昇にとどまっており、7-9月期スタートの需要の戻りは鈍い。8月についても、内閣府「消費税率引上げ後の消費動向等について(8月第4週)」によれば、8月第4週の自動車販売、家電販売、スーパー売上、百貨店売上はいずれも前年比マイナスで、7月とほぼ横ばいの水準にとどまっている。通年の成長率の個人予想については下方修正を考慮せざるを得ない。

[第1表]
20140831表1


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